「長田警察署の震災100日」という冊子に「270粒の”にぎり飯”」という当時の署長による巻頭言がある。270人の署員(当時)が270粒のにぎり飯のように、心を1つにして、一筋の光明を求めて…と記されている。おにぎりは、米ひと粒ひと粒が見えていて、固まっている。ひとりひとりの署員が存在感を示していたことを表わしている。
激甚被災地の警察署。庁舎こそは倒壊を免れたが、暗闇の中、神戸市長田区上空だけは炎で明るく、夜が明けると、今度は黒煙が舞う。住民は、あの光景がいまだに脳裏に焼き付いたままだ。
昨年は新型コロナウイルス感染防止のため、署内で大人数が一堂に会する研修はすべて中止に。震災に関する講義はなく、レジュメを渡すのみだった。今年もどうするか署内で議論はあったが、これだけの被害があった長田の街を守る警察署だからこそ、しっかりと語り継ぐ機会が必要ではないかとの思いで実現した。語り部それぞれが10分ずつ思いをつづり、コンパクトにわかりやすい講義形式にと工夫を凝らした。
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阪神・淡路大震災を知らない世代の警察官にとって、多くの課題を発見できた講義だった。
山本春希巡査(20)は岡山県出身。学生時代、2018年の西日本豪雨で水害に遭った真備町の復興支援に携わった。「交番に勤務する者として、災害が起きた時と同様、災害が起きる前から高齢者・幼い子どもが住む家庭の把握や、管内の危険箇所を知ることこそが、救助への第一歩だと思う。やはり、人は人しか救えない」と話した。
福田雅之巡査(28)は兵庫県尼崎市出身。当時1歳だったこともあり、震災を覚えていない。「小学校時代から震災について考える授業などで見聞きしたこととは違い、警察官として、自分ならどう行動するかを考えさせられた」と気を引き締めた。