男は前に住んでいた番地をふと口にしました。新しい思い出をつくるミッションが、男の過去を徐々にひも解いていきます……。
監督・脚本はギリシャ人のクリストス・ニクで、これが長編初の監督作です。ヴェネチア国際映画祭のオープニング作品となりました。この映画祭で審査員長をしていたハリウッド女優、ケイト・ブランシェットが今作を観て監督の才能にほれ込み、エグゼクティブ・プロデューサーとして参加することを申し出ました。
映画祭後に行われたオンライン対談でケイトは次のように語っています。
「パンデミックの状況下で、多くの人がこの1年間考えてきたことだと思います。誰か私を覚えている? 誰も覚えていなかったら私は存在するの? 人とのつながりなしに自分はどのように存在するのか、私たちは人の記憶の中に存在するのか。主人公は記憶を作ろうとする。存在の再構築を目指して平凡なことをします。私はこの映画がとても深いと感じました」
この『林檎とポラロイド』は架空の世界を描いています。記憶喪失がウイルスのようにまん延している孤独な人々の社会です。近未来を舞台にした映画は多いのですが、ニク監督は“近過去”を目指したそうです。
「テクノロジーやソーシャルメディアのおかげで、物事を頭の中に入れておく必要がなくなり、自分の記憶をコンピューターに保存したり、ソーシャルメディアで公開したりするようになりました」として、技術の進歩が人間の脳を衰えさせた、といいます。「テクノロジーがあまり存在せず、すべてがアナログである社会という、近過去のような世界をつくりたいと思いました」(ニク監督)。
おとぎ話のようなコメディーです。セリフは少なめで、受けとめ方は映画を観る人にゆだねられます。『林檎とポラロイド』は3月11日(金)公開。(SJ)
◇映画『林檎とポラロイド』(原題:Mila)
※上映日程は、作品の公式サイト・劇場情報でご確認ください。
