それでも軌道に乗ることはなく、2010年1月にいったんは廃業したが、神戸の根強いファンや常連客の「何とか復活を」との声に応えて、1976(昭和51)年に菊水総本店に入社、営業一筋で働いてきた堀木さんは「この場所(湊川神社前)で、商売ができるのであれば」と一念発起、当時の従業員4人とともに2か月後に再建、何とか運転資金の600万円を用意しての船出となった。
それから10年あまり。新型コロナウイルスの猛威は、神戸の街をも襲ってゆく。観光客が激減し、コロナ感染拡大の第1波の影響もあり、2020年度の売り上げ前年の約3分の1に、2021年度は半分まで落ち込む見通しだという。1965(昭和40)年に建設された工場と店舗を兼ねた5階建てビルは老朽化が進み、ついに閉店を決めた。
「何といっても、この場所で瓦せんべいを売り続けたのが大きい。瓦せんべいの製造は、それほど複雑ではないし、地味なイメージを持たれている方も多いかも知れない。ただ、優しい甘さと焼き菓子特有の香ばしさはいつの世にも愛されましたね」と話す。
「幼いころに楠公さんへ参拝した帰りに、ここに寄っておみやげを買って帰ったことや、ご近所さんならば、このあたりで遊んで…といった、皆さんの思い出とともに歩んだことが何よりもよくわかりました。その思い出が、瓦せんべいの味以上にお客様の心に響くのでしょうね」。
ビルの老朽化や従業員の高齢化を考えれば、いつかこの日が来ることはわかっていた。いろいろテコ入れしながら、というのが経営努力なのかも知れない。ただ、日々精一杯に商売する、これしかなかった。
「従業員の頑張りで、年中無休で営業し続けた甲斐があって、私たちを慕ってくださる多くのお客様が財産です」。
閉店のニュースは一気に拡散し、3月に入り、閉店を知った人々が朝9時の開店時間に駆け付け、連日、瓦せんべいや菊水饅頭が午前中に完売する。喫茶スペース「菊水茶廊」では昔を懐かしむ人々が、菊水総本店の空間をかみしめている。