「歌がうまい」「歌唱力がある」とはいったいどういうことなのでしょうか? 昭和に活躍した名歌手たちの歌声からシンガーソングライター・音楽評論家の中将タカノリと、シンガーソングライター・TikTokerの橋本菜津美がその答えを考えます。
【中将タカノリ(以下「中将」)】 菜津美ちゃんは「歌がうまい」ってどういうことだと思いますか?
【橋本菜津美(以下「橋本」)】 音程やリズムが正確なことも大事だと思いますが、私は作詞をするので歌詞の世界観をいかに表現できているかということも重視しています。聴く人の胸を「じーん」とさせられているかという部分ですね。英語や中国語、全然知らない言語でも、そういう力がある人の歌声って響きますよね。
【中将】 最近はテレビ番組の影響なのか、ただただ音程、リズムが正確であれば歌がうまいと勘違いしてる人が多いですよね。音程やリズムが取れないのはまずいけど、あえてずらして抑揚やインパクトをつけることは重要なテクニックです。菜津美ちゃんが言うように、歌詞の世界観を表現しようという意識も昔にくらべて薄まっている気がしますね。
僕は声がでかいこと……声量も歌のうまさの重要な要素だと思っています。声のボリュームの幅が広くて長く息が続かないと、テクニックを知っていてもそれをうまく活用することができないし、表現力も限定されてしまうんですね。たとえば尾崎紀世彦さんの「さよならをもう一度」(1971)を聴いていると、声量が歌の表現に果たす役割の大きさがよくわかります。
【橋本】 マイクから1メートルくらい離れても聴こえそうな声ですよね(笑)。世界観のスケールがすごい!
【中将】 ささやく部分から張り上げる部分まで声量をいろいろ使い分けているし、声の表情もすごく出ていますよね。
【橋本】 そういう表現力って、特にライブの時にめちゃくちゃ活きますよね。尾崎さんはもう亡くなってしまったので生で歌声が聴けず残念ですが……。
【中将】 ほんと残念です。尾崎さんのように聴いていて声に支配されるような感覚になれる人が僕にとっての歌がうまい人なので……。