【橋本】 えっ!? せっかくのチャンスなのに?
【中将】 冒頭でも少し話しましたが、当時のアニメソングは子ども向けのものが主流で、大人の歌手が歌うもんじゃないというようなイメージがありました。結局たかじんさんは引き受けるんですが、歌詞に「ガンダム」を入れないという条件を出したり、レコーディングの最中に「ライリーってなんですのん?」と作詞者の谷村新司さんに問い合わせたり、その後もジャケットが自分でなくアムロ・レイだったことに腹を立てるなどトラブル続きでした。
【橋本】 クセ強っ! めっちゃややこしいですね(笑)。
【中将】 でも結果、「砂の十字架」はオリコンウイークリーランキング21位、13万枚を売り上げるヒットになります。認知度を高めたたかじんさんは、その後「やっぱ好きやねん」「東京」などのヒットを放ち関西出身歌手の第一人者になるわけですが、後年「この曲は人生最大の汚点」とおっしゃっています。
【橋本】 マジですか……。
【中将】 アニメソングを歌うのを嫌がった歌手と言えばクリスタルキングの田中昌之さんも有名です。アニメ『北斗の拳』の主題歌になった「愛をとりもどせ!!」(1984)の制作依頼が来たとき、全然乗り気じゃなかったそうです。
【橋本】 えっ! 他にもいろんなアニメソングを歌っていらっしゃるし、そんなイメージは全然ありませんでした……。
【中将】 「北斗の拳」がどうこう言うんじゃなくて、アニメに関心がなかったそうなんです。当時のオリコンウイークリーランキングでは53位と必ずしもヒットしたとは言えないのですが、この曲を歌ったことが後の田中さんを救うことになります。
田中さんは1989年、草野球の試合中にボールを喉にぶつけたことが原因でハイトーンボイスが出なくなり、歌手として大きなピンチを迎えます。長らく活動できなくなり混迷の時期を迎えるのですが、1998年のアニメ『ウルトラマンガイア』(オープニングテーマ「ウルトラマンガイア!」、歌は田中昌之&大門一也)で新たなボーカルスタイルを披露して歌手として新境地を開きます。
この曲を担当した背景もいろいろあるようですが、やはり昔「愛を取り戻せ!!」を歌っていたことは大きかったと思うんですね。以後、田中さんは「仮面ライダークウガ!」(2001)など数々のアニメソング、ゲームソングを担当し、アニメソング界に欠かせない歌手の1人になっています。