世界文化遺産・比叡山延暦寺(滋賀県大津市)を総本山とする天台宗のトップ・ 第258世天台座主に就任した大樹孝啓(おおき こうけい)師(97)が、就任を内外に披露する「伝燈相承(でんとうそうじょう)式」が31日、延暦寺根本中堂で営まれた。
大樹座主は兵庫県姫路市出身。書写山円教寺の住職を1984(昭和59)年10月から2021(令和3)年11月まで務めた。天台宗務庁(滋賀県大津市)によると、兵庫県の寺院の住職が天台座主に就任するのは初めてという。
伝燈相承式は天台宗の最高の慶事とされる。 大樹座主は、 法衣として最高の儀式服 「袍裳七條(ほうもしちじょう)」を身にまとい、殿上輿(てんじょうごし)輿に乗り、31日午前10時過ぎに控え所である書院を出発。新緑の映える雨上がりの延暦寺境内を根本中堂まで進んだ。
その後根本中堂の中陣に登壇・焼香の後、荘厳な仏教音楽・天台声明(しょうみょう)が堂内に響き渡る中、 宗祖である伝教大師・最澄の御影(みえい)の前で、歴代の座主が名を刻む「伝燈相承譜(ふ)」に記帳した。
これにより、1200年以上の歴史を刻む天台宗と比叡山延暦寺は大樹天台座主のもと、新たに歴史を歩み始めた。相承式は、故・森川宏映(こうえい)前座主が2016年5月に行って以来、6年ぶりとなる。
古式に則った儀式を終え、大樹座主は「現下の情勢は地球温暖化や武力紛争に起因する人道問題など、誠に憂慮する事態である。この混迷する状況に傍観することなく「忘己利他(もうこりた)」「一隅(いちぐう)を照らす」(※)という伝教大師の”み教え”を守り、慈悲にあふれた社会を目指さなければならない」と話した。
※「忘己利他」自分を忘れて他人のためにつくす
「一隅を照らす」社会の片隅に光を当て、与えられた持ち場や役割を誠実に務める