奈良県のシンボルとされる動物といえば、鹿。観光客から愛されるキュートなマスコット的存在でありながら、奈良公園周辺では神の使い「神鹿」として信仰を集め、国の天然記念物に指定されている“神々しい”生き物でもあります。
奈良公園や春日大社を訪れると、少し歩いただけでものびのびと暮らす鹿たちに遭遇します。商店に鹿が入ってくるのも日常茶飯事といいますが…よく考えてみると不思議な光景ですよね。そこで「奈良の鹿愛護会」(所在地:奈良市春日野町)の石川さんに、奈良公園と鹿の結びつきについて聞いてみました。
奈良の鹿愛護会は、その名の通りその名の通り奈良公園周辺に生息する鹿たちを保護する組織。活動内容は、エリア内の巡回に、ケガや病気になった鹿の保護、鹿の生態調査から児童・学生に向けた啓発活動など、多岐にわたります。
前身の「春日神鹿保護会」が1891年に設立されたので、100年以上の歴史を持つことに。「私たちのような組織が設立させるはるか昔から、時代ごとに鹿を見守り、保護する人たちはいました」と石川さん。
そもそも「奈良公園といえば鹿」というイメージは県外でもすっかり定着していますが、奈良と鹿の関係性はいつから始まったのでしょうか?
奈良に鹿が生息し始めたのがいつ頃か、正確な時期は不明です。しかし、さかのぼること1250年余年。春日大社の由緒を記した『古社記』には、768年の時点で「白い鹿」にまつわる伝説が残されており、日本最古の歌集『万葉集』(600年頃~760年頃の作品を収録)にも奈良に鹿がいたことが分かる和歌が詠まれています。
当時は今以上に鹿が重んじられており、鹿を傷つけた者には厳しい罰が与えられたそう。あくまで伝説ですが、鹿を殺めてしまった少年・三作が、刑罰として穴に生き埋めにされた……というおどろおどろしい話が残っているほどです。
鹿のおやつとして観光客が買い求める「鹿せんべい」は、江戸時代前期からすでに存在していたと言われています。1791年に出版された『大和名所図会』にも、茶屋に座っている男性が鹿にせんべいのようなもの与えている様子が描かれており、現代と変わらず鹿が愛でられていたことがうかがえます。