テレビドラマや映画などで「裸の大将」として親しまれてきた画家・山下清の、芸術家としての真の姿を紹介する特別展「生誕100年 山下清展―百年目の大回想」が、神戸市東灘区・六甲アイランドにある神戸ファッション美術館で開催されている。2022年8月28日(日)まで。
1922(大正11)年に東京・浅草で生まれた山下清は、幼少期に重い消化不良を患い、完治したものの軽い知的障害が残った。12歳の時に八幡学園に入園し、そこで「ちぎり絵」に出会った。最初は紙を大きくちぎり貼っていただけだったのが、画才を開花させ独自の手法の「貼絵」へと発展させていく。1940(昭和15)年、18歳の時に「学園での生活から自由になりたい」「兵役を逃れたい」との思いから日本中を放浪し始める。
山下は、訪れた場所でスケッチをするのではなく、そこで出会った風景などを「記憶」にとどめ、その記憶をもとに緻密で色鮮やかな貼り絵で描いた。作品を見ると、数えきれないほどの小さな紙やこより状の細い線で、風景の細部まで表現していることがわかる。
花火が好きだったという山下は、各地の花火大会に足を運び、その情景を作品にしている。「長岡の花火」(1950年)は、夜空に浮かぶ花火はもちろんのこと海に映る花火や、無数の観客の一人ひとりまで丁寧に描いている。「印刷物ではその緻密な表現まで見ることは難しい」と神戸ファッション美術館の担当者は話す。1971(昭和46)年に49歳で亡くなった際の最後の言葉は「今年の花火はどこに行こうか」だったと言われている。
会場には、幼少期(8歳から10歳ごろ)に描いた貴重な鉛筆画から、「日本の原風景」と称される代表的な貼絵、油彩、水彩画など、初公開も含めおよそ170点が展示されている。山下は神戸や西宮を訪れており、南京町や夙川の教会のスケッチの他、放浪中に使っていたリュックサックも。リュックサックに絵を描くための道具は入っておらず、野犬に襲われた時などの護身用に5個の「石ころ」を入れていたという。
一方、山下は、1961(昭和36)年にヨーロッパに足を運び、約40日間で12か国をまわったという。服装はスーツにベレー帽というスタイルで、このときは「スケッチブック」を持って行った。「画家」としての旅行だった。
テレビドラマや映画での印象が強いかしれないが、ここには芸術家・山下清の真の姿がある。「見た風景を『記憶』し、『山下清』というフィルターを通して完成した作品には、山下の人柄、やさしさ、あたたかさが出ている。それを感じ取ってほしい」と担当者は言う。
なお、会場では、山下清がヨーロッパを訪れた1960年頃のドレスコレクションも展示。当時はオートクチュールからプレタポルテへと変わる時期で、イブ・サンローランやピエール・バルマンなどモード系衣装と民族衣装などを紹介する。担当者は「このようなファッションに身を包んだ人が行き交うヨーロッパの街を、スーツにベレー帽姿の山下清が歩いていたと想像してみるのも楽しい」と話す。
◆特別展「生誕100年 山下清展―百年目の大回想」
会期 2022年6月25日(土)~8月28日(日)
会場 神戸ファッション美術館
(神戸市東灘区向洋町中2-9-1 六甲アイランド)
休館日 月曜日
【公式HP】