キーンと突き抜けるような冷たさがたまらない「かき氷」。クリーミーな食感のアイスクリームやソフトクリームとは違ったおいしさが魅力です。
夏の縁日やお祭り、カフェなどの店舗では夏季限定メニューとして登場するなど「夏の風物詩」というイメージが強いかき氷ですが、奈良県では年間を通して提供されることも多く、他の地域と比べてもかき氷がよく食べられていることが分かります。
さらに奈良県は、いにしえからかき氷と深い関係性があるとされ「かき氷誕生の地」と言われています。その理由を探るべく、県内のかき氷屋100店舗以上と取引がある奈良市唯一の製氷メーカー「日乃出製氷株式会社」(奈良市三条桧町)の中さんに、詳しい話を聞きました。
やはり気になるのは、奈良県でかき氷が生まれたという「伝承」について。中さんの話によると……。
「歴史書『日本書紀』(720年ごろ完成)では、仁徳天皇期、当時の奈良県で氷池で凍った氷を冬の間に氷室(古代の冷蔵庫のようなもの)で保存・管理していました。そして夏になると平城宮に献上した、という記述があります。『天皇がことのほか喜んだ』という文章も残っているほどで、当時は天皇や貴族も食していたのではと考察します。これは現在につながる『氷事業』や『氷食文化』の始まりを表しているのではないでしょうか」(中さん)
日乃出製氷では氷の製造・加工やドライアイス販売をおこなっています。その事業の原型が、およそ1300年前の奈良県に、もう存在していたというのです。
また、平安時代のエッセイとしてあまりに有名な清少納言の『枕草子』にも、かき氷に関する描写があったとされています。
「枕草子の四十二段『あてなるもの』には、『削り氷にあまづら入れて新しき金まりに入れたる』という記述があります。これは『細かく削ったかき氷にあまづらをかけたものが大変雅びやか』だという意味です。『あまづら』というのは『ツタ』のこと。その樹液を煮詰めたものが『甘葛煎(あまづらせん)』で、シロップとして削った氷にかけていたようです」(中さん)
「削った氷に甘いシロップをかける」といえば、まさしくかき氷のこと。この枕草子における文章が、日本で最初のかき氷に関する記述だとされているそう。令和に生きる現代人と同じく、平安貴族たちも夏になると氷で涼をとっていたことが伝わってきます。
かき氷といえば、舌が染まるほど鮮やかなシロップにあらく削った氷という組み合わせがポピュラーですが、最近では粉雪のようなふわふわ食感タイプや、泡状のムースがのった「エスプーマかき氷」など新種や変わりダネも。進化が著しいかき氷について中さんに聞いてみると、こんな回答が。