ではスレイダーはいつ、どこからやってきたのでしょうか?
巻田さんによると、このタイプの糸通しは戦前から存在しており、当時はドイツやイギリスから輸入していたそう。その時からすでに人物が型押しされており、これが誰なのかは当時でも不明だそうです。
戦後は日本国内でもスレイダーが製造されるようになり、多少の違いはあるものの、オリジナルに施された型押しを真似ていたそうです。
また、各社のスレイダーを比べてみると横顔は「女性」に見えるものもあれば「男性」のように見えるものも。このことから、必ずしも同一人物をモデルにしていない、ということがわかります。
巻田さんいわく「KAWAGUCHIのスレイダーも何かを真似てこの顔になったようですが、はっきりとした記録が残っておらず『恐らく女性だろう……』という推測しかできません」とのことでした。
最後に、スレイダーの現在の需要についても聞きました。
「昔から変わらず一定数が売れ続けています。ある程度の耐久性はありますが、あくまでも消耗品ですので定期的に買い替える必要があるからでしょう。他にも糸通しアイテムはありますが、『やっぱり昔ながらのスレイダーが良い!』と多くの愛用者の声も寄せられています」(巻田さん)
こういった声を聞くと、スレイダー最大の魅力とは「シンプルな使いやすさ」であることがわかりますね。
「スレイダーのほか『簡単糸通し』という、その名の通り簡単に糸を通せる商品もラインナップしています。価格や形状の違いはありますが、それぞれに良い部分がありますので、ご自身の手芸スタイルに合わせて選んでもらえればと思います」(巻田さん)
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今回調べてみて、一部の謎しか解明できなかった銀色の糸通し「スレイダー」。今後、型押しされる横顔は変わっていくかもしれません。もしかすると、横顔は消滅するかもしれません。ですが、「スレイダー」自体は今後も手芸界で生き続けるであろう名品だったのです。
(取材・文=宮田智也 / 放送作家)