阪神タイガースの球団歌として知られる「六甲おろし」は当初あんな歌詞じゃなかった……。国民的野球漫画「巨人の星」には「ゆけゆけ飛雄馬」じゃないイメージソングがあった……。トリビアと感動あふれる野球ソングの歴史を、シンガーソングライター・音楽評論家の中将タカノリと、シンガーソングライター・TikTokerの橋本菜津美が紹介します。
【中将タカノリ(以下「中将」)】 菜津美ちゃんはしょっちゅうお兄ちゃん(※お笑い芸人の橋本大祐)と野球の試合を観に行ってるみたいですが、どこの球団が好きなんですか?
【橋本菜津美(以下「橋本」)】 おじいちゃんが読売新聞の記者だったので、やっぱり(読売)ジャイアンツ(=巨人)です。小さい頃から「巨人の星」の歌とか教えられましたね。
【中将】 「巨人の星」は世代を超えた野球アニメですよね。大リーグ養成ギプスみたいな謎アイテムとともに、あの暑苦しい主題歌もいまだに有名……。というわけで、今回はそんな野球ソングたちを一挙に振り返っていきたいと思います。
巨人と言えばライバルは阪神タイガースですが、その球団歌として有名は「六甲おろし」(正式名称「阪神タイガースの歌」)は、なんと現存する最古の球団歌です。これ以前にも日本初のプロ野球球団である日本運動協会が制作した「日本運動協会野球歌」(1923)や中日ドラゴンズの前身、名古屋軍が制作した「名古屋軍応援歌」が発表されているんですが、譜面が残っていません。よって「六甲おろし」がいま残っている最古の球団歌になるわけですが、実は1936(昭和11)年3月25日に発表された初代バージョンは今とは少し歌詞が違っています。
【橋本】 あれ? 「大阪タイガース」なの?
【中将】 そうなんです。当時の球団名は大阪タイガースだったので、歌詞もそこだけ違っているんですね。1961(昭和36)年に球団名が「大阪タイガース」から「阪神タイガース」に変わったことで正式タイトルも「大阪タイガースの歌」から「阪神タイガースの歌」に変わって、歌詞も変更されたわけです。作曲の古関裕而さんは「大阪タイガース」のほうが「オウ オウ オウオウ~♪」からのつながりがいいから残念がったみたいだけど。
【橋本】 作曲家として残念な気持ちはわかるけど、致し方ないですね……!
【中将】 今より娯楽の少なかった時代、特に戦後の焼け野原から復興してゆく時代はみんな野球に夢中。プロ野球はもちろん高校野球も終戦の翌年、1946(昭和21)年に再開して大きな盛り上がりを見せるんですが、1948(昭和23)年に学制の改定にあわせて大会名が「全国中等学校優勝野球大会」が「全国高等学校野球選手権大会」に変更されたことにあわせ、あらたな大会歌が発表されました。当時の流行歌手、伊藤久男さんが歌った「栄冠は君に輝く」。
【橋本】 曲名ではわからなかったけど聴けばわかりました! 夏になるとしょっちゅうかかってますもんね。ちなみに中将さんは、高校野球は観るんですか?
【中将】 いや、あんまり好きじゃないんですよ。通っていた高校が甲子園出場の常連校だったんだけど、テレビで「名将」とかもてはやされている監督が野球部の生徒に暴力をふるいまくってるのを見て引いてしまったんです……。
【橋本】 それは……。