【中村弁護士】 子どもの頃から男女格差がある社会に疑問を持っていました。特に覚えているのは、小学校で委員長を決めるとき、委員長は男子で、女子は副委員長か書記だと決められていたことです。幼心にびっくりしたことを覚えていて、なぜ男子と女子で役割が決められているのか、なぜ女子が委員長になれないのか疑問に思いました。
大学卒業後は地方公務員として働いていましたが、その間に困っている女性をたくさん目の当たりにして、自分の力で手助けしたいと思うようになり、一念発起し公務員から弁護士になりました。
【和田谷弁護士】 私は、実家が事業を営んでいたので、もともと組織や会社で働くという発想を持ったことがなく、母からは女性は資格を取って自立して生きるよう言われてきたため、自然と資格を持って働きたいと思っていました。中でも私の両親の関係、女性が軽んじられる家庭内での男女格差の現実を幼い頃から目の当たりにし、中学生の時、報道機関か法曹界で働きたいと思ったことがきっかけです。高校生の時、弁護士になろうと決め、大学生の時、家庭内で起きる問題を扱う弁護士になりたいと思い、苦節約10年間の受験期間を経てなんとか弁護士になりました。
――主に女性の権利に寄り添った活動を行なっているそうですが、実際にはどのような相談が多いのでしょうか。
【和田谷弁護士】 特に多いのは、ドメスティック・バイオレンス(DV)を含んだ離婚問題です。DVといえば殴る・蹴るなどといった身体的な暴力をイメージする人が多いですが、実際は言葉や態度による「心理的DV」や、夫が収入をすべて管理していて、妻に全く生活費を渡さないなど、金銭の自由を奪って経済的に相手を追い詰める「経済的DV」、家族や友人を含む家庭外の全ての人間関係の断絶を強要する「社会的DV」などさまざまです。
――心理的DVや経済的DVなども立派なDVなんですね。
【中村弁護士】 そうですね。客観的に見ればDV被害を受けていることが明らかである場合も、DV被害者はそのことに気がついていない場合もあります。友達や親戚などから言われてやっと気付くということもあります。
【和田谷弁護士】 DVが起こる背景には、家庭内のジェンダーの考え方が影響している面も大きく、加害者は罪の意識が薄いため被害が続くこともあります。
家族の問題は、人に話しづらい、外からは見えづらい問題です。DVの被害を受けているかもしれない、もしかしたら配偶者にDVの予兆があるかもしれないと感じた場合には、弁護士や、DV相談センターなどに相談してください。まだ具体的に離婚すると決めたわけではないという場合でも、一人で抱え込まず、まずは気軽にご相談ください。
◆中村衣里(なかむら えり)弁護士 西宮Women‘s法律事務所
10年ほど兵庫県庁にて勤務した後、2011年に弁護士登録。主に女性の依頼者を中心に、離婚等の家事事件や被害者支援に取り組む。弁護士会においては、ジェンダーの平等に関する委員会等の委員会活動に積極的に携わり、自治体では、女性のための法律相談やアドバイザー、審議会等委員としても活動を行う。
◆和田谷幸子(わだたに さちこ)弁護士 西宮Women‘s法律事務所
神戸大学法科大学院を卒業後、2009年に弁護士登録。離婚事件、とりわけドメスティック・バイオレンス(DV)、性暴力被害、セクシャル・ハラスメント事件を多数担当し、女性の貧困問題に関する調査に取り組むなど、これまで一貫して女性の権利に寄り添う活動を行う。大学院や大学での講義(ジェンダーと法)、研修、市民向け講座等の講師も務める。