日本では葬儀後に塩を自分のからだに振りかけるという「清め塩」の習慣があります。外国人からするとかなり不思議な光景だといいます。
さて、WHOの食塩摂取基準によると、日本人は平均で基準の2倍以上の食塩を摂取しているという結果があります。健康のために減塩は取り組むべき課題ですが、「清め塩」のように、“食”以外の部分でも日本には塩に対して深いつながりや特別な意味があるようです。
そもそも、なぜ塩は「清める効果」があると思われているのでしょうか? 葬儀の風習などに詳しい吉川美津子(きっかわみつこ)さんに話を聞きました。
吉川さんによると、『古事記』に「黄泉の国から戻ったイザナギノミコトが自ら体に付いた黄泉の国のケガレを祓う(はらう)ため、海水で禊祓(みそぎはらえ)をおこなった」ということが記されており、浄化するための“象徴的行為”として古くから塩による清めは行われていた、とのことです。
葬儀後に「清め」を行う理由について聞くと、
「神道では死を『ケガレ』だと考え、悪い何かが憑いていると考えます。『死』自体が“理由の分からぬ得体の知れないもの”とされていたのです。そういった概念が根底にあったことから、葬儀後にケガレを自宅に持ち込まないよう、塩を振りかけるといった行為につながっていったようです」(吉川さん)
「ケガレ」という言葉の本来の意味については、
「『気枯れ』が由来ともいわれています。大切な人を亡くした悲しみのあまり、『気』が『枯れてしまう』という状態を指します。弱った己の心身をもとの状態に戻すため、塩を使って『清め』が行われていたのかもしれません」(吉川さん)
では、塩に「清め」の効果があるとされているのはなぜでしょうか?
「説は色々あります。塩は人間が生きていく上で欠かせないものであり、古くは不思議なパワーを秘めているものだと考えられていました。それを信じ、ケガレを祓う・清める効果があると信じられていたのではないでしょうか」(吉川さん)
さらに吉川さんは、“塩漬け”などにも見られるように、塩が腐敗の進行や雑菌の繁殖を防ぐ効果があったことから、「不浄のものを清める」といった信仰が発生したとも推測できる……とも話していました。
吉川さんは、宗教や宗派によっても違いがあるといいます。
「たとえば浄土真宗は“亡くなった時点で成仏をする”という思想を持つことから、塩を用いることはあまり無いですね」(吉川さん)
地域差もあるようで、米、味噌、大豆、魚、餅、団子、豆腐などを食べることで「清め」とする地域や、海で手や顔を洗い、口をすすぐといった地域もあるそうです。