私たちの食卓に欠かせない野菜や肉などの“農林水産物”。その元には、おいしくて安心・安全なものを届けようと日々努力を続ける生産者がいます。しかし、コロナ禍や世界情勢により肥料・飼料価格などの生産コストが高騰。多くの生産者が苦境に立たされているのが現状です。
そこで、兵庫五国(摂津・播磨・但馬・丹波・淡路)をめぐり、各地の生産者に、取り巻く状況や声を取材しました。全5回シリーズ、第1回は「但馬(たじま)」です。
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但馬地域は、兵庫県の北部・日本海側に広がります。地元産品を中心に、新鮮な野菜や果物、加工品、肉を届けようと、2011(平成23)年、豊岡市八社宮に「JAたじま ファーマーズマーケット『たじまんま』」がオープンしました。城崎温泉や出石、玄武洞公園(いずれも豊岡市)から車で約20分という、観光客にとっても便利な場所にあります。
今の時期、但馬では、大根や白菜、春菊など、鍋の材料に欠かせない野菜が旬を迎えています。朝来市の名産で、甘くてやわらかい冬の味覚「岩津ねぎ」は3月下旬まで購入できます。また、但馬地域で飼育された但馬牛(うし)の肉「但馬牛(ぎゅう)」も人気です。
生産者の生の声を伝えてくれたのは、JAたじま営農生産部直販課の課長・枚田昌樹さん。枚田さんは「自分で作った野菜を売って、誰かに食べてもらうことが生産者にとっての“生きがい”になっている」と話します。
しかし、広い管轄エリアを持つJAならではの課題も……。たとえば、店舗から離れた地域に住む高齢の生産者から、自力での農産物の搬送が難しいとの声が上がったそう。それを解消すべく、2020(令和2年)にスタートしたのが「たじまんまルート便」です。午前8時に『たじまんま』を出発した保冷トラックが、管内5か所の営農生活センター(香住・浜坂・温泉・村岡・八鹿)を巡回。生産者は、最寄りのセンター内に設けられた集荷場へ農産物を持ち込むだけで済むという仕組みです。
ルート便は、現在は週に3回運行しています。枚田さんによると、「生産者から、『農業を辞めようと思っていたが、ルート便があるから続けられる』という声が寄せられた」のだとか。多様な地形・気候の但馬地域では、同じ農産物でも場所によって旬の時期が異なります。ルート便の開設により、常時さまざまな地域の農産物が店に集まるようになり、品目・品数も充実したとのことです。