地球温暖化にくわえ、開発や火災によって失われつつある熱帯林を守り、多種多様な動植物を未来に残したい。そんな思いから食品の輸入やものづくりを行っているのが、神戸市東灘区にある『蜜林堂』だ。
店の名前が「密林」ではなく「蜜林」なのには理由がある。蜜林堂は、日本では珍しい“ハリナシバチ”のハチミツを主力商品として扱う店なのだ。
おもに熱帯・亜熱帯地方に生息するハリナシバチは、その名の通り針を持たず刺さないハチで、近年、東南アジアを中心に養蜂業が盛んに行われているという。ユニークなハチが作るハチミツは、味と質感も独特。「お客様が驚かれるのが、サラッとした口当たりとすっぱさを感じること。この酸味は加工ではなく“天然の抗菌物質”とも呼ばれるプロポリスによるものなのです」と代表の上林洋平さん。
ハチミツで一般的なミツバチの巣はハチが作り出す蜜蝋(みつろう)でできており、そこで蜜が集められていく。一方、ハリナシバチの巣は丸みのある袋(ハニーポット)が枝状のもので繋がった複雑な形をしており、蜜蝋と木の樹脂が混ざったプロポリスでできている。そのため、袋に貯められた蜜には熟成の過程でプロポリスが自然に溶けこみ、ほかのハチミツにはない酸味を含んだ味わいになるという。
さらに、ハリナシバチにはさまざまな種類が存在する。ハチが変わることで蜜の味も変わるほか、集める花の蜜や樹液によっても風味が変化するという、とりわけ味のバリエーションが豊富なのも特徴だ。
巣の形が複雑なことから、採蜜方法もミツバチのものとは大きく異なる。スポイトやポンプを使い、2センチメートルほどの小さなハニーポットの穴から手作業で採集するため、1回に採れる量は1つの巣箱からわずか200~500グラム程度という。