早川さんをはじめ、阪神・淡路大震災や東日本大震災を生き抜いた人々は、多かれ少なかれ心に傷を負っている。その傷は消えることはない。そして次の災害は大丈夫、という保証はない。南海トラフ巨大地震の確率や規模に恐れるのではなく、いつ起きても大丈夫だ、慌てないようにするにはどうすれば良いのかを考る機会になればと願う。
「肩ひじを張って(南海トラフと)向き合うのではなく、備えは、誰でも今日からできる。お金をかけたり、気合いを入れることではない。まず身の回りを見つめ直すだけでいい」と話す。
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講演の後、早川さんが、「ちょっと見てほしいものがあるんです」と話した。そして、ショルダーバッグから折り畳み傘を取り出した。「いつもこの傘をバッグに入れているのに、この存在を忘れて、ビニール傘を買ったりしてしまうこともありました。でもね、この傘を持ち運ぶようになった12年間、一度も雨に濡れたことがないんですよ」と振り返った。
「多忙な日常で、バッグの中の傘の存在すら忘れる時もあります。でも、いつも傘を持っている以上、雨に困ることはなかったのです。きょうから、誰でもできる”備え”とは、予報や予測に基づくんじゃなく、こういうことだと思うのです」。
そして、「揺れを感じたら、机の下へ」に象徴される固定観念や既成概念は否定はしないが、時代とともに都市空間が変わる中、いったんそれらの考え方を脇に置き、違う角度の切り口を持つ勇気が必要とも指摘する。
災害時に持ち出すものも、水や食糧はもちろんだが、スマートフォンと充電器の優先順位が、現金より上位を占めるかも知れない。今や電子マネーの時代だ。しかし、災害時は停電になる確率が極めて高い。とたんに「アナログ・ワールド」になってしまう。
通信孤立に陥ったら、ATMが機能しなかったら、コンビニエンスストアでQRコードが使えなくなったら……その時にどういう体制をつくることができるかが重要だと話した。
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生徒たちは阪神・淡路大震災を知らない。東日本大震災発生時は3~4歳。リアルタイムでの記憶はない。このうち4人の女子生徒がラジオ関西の取材に応じた。
それぞれ、「通常なら、建物が頑丈かどうか(強い震度に耐え得るかどうか)を考えがちだが、中に配置されている物が危険を伴う可能性があるという観点は持っていなかった」、
「下敷きになった18人のうち、5人の命しか救えなかった話を聞いて、はっとさせられた」、「揺れを感じて、『身を守れ』とは言われるが、何が危ないのか、具体的にどう行動するのか、わかってないことに気付かされた」、「南海トラフ巨大地震、言葉では聞いているが、いつ起きても不思議ではないことを実感した」と感想を話した。
阪神・淡路大震災を体験していない世代が、近い将来、“我が事として”受け止めなければならない時が来る可能性は高い。早川さんは「講演での話は、いったん記憶の底に埋もれるかも知れないが、生徒それぞれが心の“ひだ”に刻み込まれるはず。それがふとした瞬間、記憶の“ひだ”から出てきて、生きたものになる」と信じている。