人工哺育では、獣医と飼育員が交替でミルクを与える。量の調整や回数の変更を行うなど、これまで試行錯誤を繰り返してきた。現在は、1日4回授乳を行っており、状態も安定しているという。ほかにも、排尿・排便の促進、保育器内の温度・湿度管理を行うなど、飼育員らは母親代わりとなってコゴローの成長を見守っている。
順調に成長を続けてきたコゴローだが、獣舎床で発見された際は、助かる確率が「五分五分」程度と見込まれていた。
発見直後から治療にあたってきた 獣医の田邊哲哉さんに、現在に至るまでの様子や自身の心境の変化などについて聞いた。
◆「治療」から「育てる」へ
——発見直後の状況や、コゴローの様子はどのような感じでしたか。
【田邊さん】 初日はほんとにバタバタでしたね……。(運び込まれたコゴローを見て)正直厳しいかなとも思いました。ただ、保育器の保温や点滴で体を温めるうちに、少しずつ動きが増えてきたので、これはいけるかもしれないと思いました。
その後はすぐに、母親の袋に戻すことを試みました。やはり親に育ててもらうのが一番ですから。でも入れてもすぐに出てしまって、うまく戻ることができなかったんです……。自分たちが親になるしかないと思いました。みんなでコゴローを育てようと決意しました。
——長い時間をともに過ごす中で、田邊さん自身の心境の変化はありましたか。
【田邊さん】 初めのうちは、ずっとひやひやしながら育てていました。心境が変わったのは、ミルクを上手に飲めるようになった頃かなと思います。
本来カンガルーの赤ちゃんは、母親のおっぱいを加えっぱなしなので、あごがすごく硬いんですね。コゴローも最初はその状態で、(哺乳瓶を)上手に扱うことができませんでした。 カテーテル(細い管)を、直接消化管の中に入れて流し込んだりもしていたんです。やがて自分で哺乳瓶の吸い口を認識して、だんだん上手に飲めるようになりました。「命を助ける」から「育てる」へと意識が向くようになったのはこの頃ですね。
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田邊さんは、これら獣医と飼育員の連携を“ワンチーム”と表現した。それぞれ専門的な役割はあるものの、こまめな連絡や日報の共有を徹底し、常に足並みをそろえてきたという。デビュー前に同園が発表したコメントでは「(コゴローは)たくさんの飼育員や獣医が親代わりになり成長しました。皆さんにその姿をご覧いただけることをとてもうれしく思います」と話していた。
続いて行った、担当飼育員の城之尾さんへのインタビューでは、コゴローの性格や特徴、育ての親としての思いを聞くことができた。