2022年に全国で初めて、市内に複数あった暴力団事務所の撤去が完了した兵庫県尼崎市で、“次のステージ”に向けた暴力団排除活動の取り組みが進む。
尼崎市暴力団追放推進協議会は27日、警察・行政・市民が一体となった情報共有や、暴力団の拠点を再び作らせないよう市暴力団排除条例の改正を求める要望書を松本真市長に提出した。
兵庫県警によると、尼崎市内では2015(平成27)年時点で、暴力団事務所が8か所確認されていた。同年8月、六代目山口組が分裂、神戸山口組との「2つの山口組」の構図となった。
尼崎市はその後、2019年(令和元)4月、「尼崎市暴力団排除活動支援基金」を創設し、暴力団追放運動を支援してきた。折しもこの年以降、「2つの山口組」の対立抗争事件が激化、同年11月には市内の繁華街近くで神戸山口組元幹部が射殺される事件が起きた。
両組織は暴力団対策法に基づく特定抗争指定暴力団に指定され、尼崎市は警戒区域となった。これは現在も解除されていない。
要望書を受け取った松本市長はこうした状況を鑑み、仮に尼崎市が今後、警戒区域の指定から外れることになった場合、新たに暴力団事務所が進出することがないよう、排除に向けた継続的な取り組みが必要との見方を示しており、今後具体化を進めるという。
市民とともに長年、暴力団排除運動に携わる垣添誠雄弁護士(兵庫県弁護士会)は、「尼崎市には暴力団事務所はないものと思われているが、今後水面下で活動することが十分あり得る」と危惧する。垣添弁護士によると、歴史的に暴力団にとっての尼崎の地は、公営ギャンブルのノミ行為など資金獲得のための大きなマーケットとされていた側面があった。2025年大阪・関西万博に関しても、会場と地理的に近いことから、建設・土木分野の利権に目をつけ、忍び込む危険性をはらんでいるという。
背後には、2005年の愛知万博開催・中部国際空港開港に伴い建設利権を握ったとされる、六代目山口組組長の出身母体で、名古屋を拠点とする弘道会の存在がある。
推進協議会が今回の要望書に盛り込んだ取り組みの案として、▼警察・行政・市民が協議できる常設の委員会を構成して、暴力団情勢に応じて指針を示し、臨機応変に対応策を打ち出す ▼尼崎市暴力団排除条例(2013年7月施行)について、兵庫県の暴力団排除条例に沿って、違反時の罰則強化(罰金、懲役刑を視野に)や、拠点の新設を禁じる対象を暴力団事務所だけでなく、連絡や待機の場とする”準暴力団事務所”に広げ、すべての市域で適用することなどを挙げている。
暴力団対策法が施行された1992(平成4)年当時、暴力団対策は警察が担うべき課題で、行政が関与する意識が全国的に薄かったという。垣添弁護士は「尼崎市では少しずつ、こうした風潮に変化があり、暴力団排除の意識が急速に高まった」と振り返る。今後、市の制度改革を進め、市民に密着した街づくりの拠点「地域振興センター」(市内6か所)で住民の声を直接取り上げるなどの体制を取る案や、学識経験者や民事介入暴力対策に携わる弁護士を交えた条例制定委員会(仮称)の立ち上げを検討課題とする。