姫路市北部に広がる農山村地域で、多種多様なハーブを専門的に扱う「香寺ハーブ・ガーデン」(同市香寺町矢田部)。農薬や除草剤を使用せず、自然に近い状態で栽培したハーブを原材料に、お茶や菓子類だけでなく、ハーブの効能を生かしたオリジナル石鹸やシャンプー、精油といったボディケア用品まで製造・販売するハーブ園だ。
開園は1984年。20年にわたる闘病の末に他界した父が夢見ていたレストラン経営を実現しようと、大学を卒業して大手物流会社の経理部門に勤めていた福岡譲一さん(65)が、当時26歳で一念発起して起業した。
しかし、当時の福岡さんにはハーブの知識が皆無。国内に2か所しかなかったハーブ園を両方訪ねて教えてもらうだけでなく、世界中から1千冊以上の専門書を買い集め、ついには実地研修も必要だと無一文に近い状態で本場フランスへと渡った。
ところが、当時のフランスの一般家庭ではハーブティーがあまり飲まれておらず、欧州=ハーブ大国という観念はマスコミが作り上げた虚像だったと気づかされることに。やがて所持金が尽き、見知らぬ田舎町での野宿生活で息絶え絶えのところをペンション経営のマダムに救ってもらう。さらにこの女性、親切なことに福岡さんにハーブのイロハを伝授し、なんと帰国費用まで工面してくれたのだった。後年、再度フランスへ渡り、感謝の意を伝えたことは言うまでもない。
福岡さんは苦労の連続の末、2001年に法人を設立。大学教授との産学協同研究では、ハーブから色素やアロマ、機能成分を取り出す抽出技術の開発に成功した。また、自然の力の偉大さを知れば知るほど食の安全への関心が大きくなり、2016年には山村の幼稚園舎跡を活用して農家レストラン「且緩々(しゃかんかん)」を開業。"医食同源"(バランスのとれた食事で健康を保つ考え方)の実践にも取り組んでいる。
「ハーブを軸に、今後は過疎地域の観光振興や就労機会創出にもチャレンジしたい」と話す福岡さん。大いなる自然の恵みで人々の健康で幸せな生活を実現することが願いだ。
(取材・文=播磨時報社)