在宅介護における困りごとは多々あるが、その中のひとつに「入浴が困難な人を家族でサポートすることの難しさ」が挙げられる。そんな中、介護生活を豊かにする入浴時間を提供する施設が兵庫県神戸市にある。入浴介護サービスや訪問介護などの老人福祉事業を手掛ける「株式会社ゆうの縁」(神戸市垂水区)代表取締役の山岸宣威さんに、同社が手がける“くつろぎの入浴時間”について詳しく聞いた。
山岸さんは4年前に今の事業を開始したが、これまでも23年間介護に携わってきた。ちょうど転職をしようとしている際に介護保険が始まると聞き、調べてみて興味を引かれたのが始まりだったという。同社が行っている「訪問入浴」とは、自力で風呂に入れない人や、病気・加齢によって余命が残りわずかとなった“終末期”と呼ばれる人のところに訪問し、入浴のサポートを行うサービス。いかに安全に行えるかがキモだそう。
訪問の際は看護師を含め、3名の職員で道具一式を持参する。浴槽は分割式のもので、利用者が寝たまま入ることができる特殊なもの。ベッドの横にセッティングして使うが、訪問先の風呂場の湯を使用し、使用後の湯は風呂の排水溝に流すという形になる。
「入浴することが大嫌いな方や人に触られるのが苦手という方もいますが、日本人はもともとお風呂好きが多い。なので、いざお風呂に入ってしまえば喜んでもらえることが多いですね」(山岸さん)
とくに初回訪問時、介助を受ける側は「いったい何をされるのか」という緊張感を抱くため、不安を払拭しながら「気持ちいい」と感じてもらえるような精神状態に持っていくのが重要だという。
「ベッド上では眉間にしわを寄せているような方でも、お風呂に入れば表情が和らぎます。言葉を発せる方であれば『気持ちいいな〜』と言ってもらえますが、さまざまな事情で言葉でのコミュニケーションができない方も表情は正直。ほっこりとリラックスした顔を見れば家族の方も喜ばれます。私たちにとっては、それがやりがいにつながっていきます」(山岸さん)
利用者の自宅にあがるため、各家庭のルールに基づきながらサービスを提供するので常に気を張り巡らせる。もちろん体力も使う仕事である。「ご家族様に満足してもらうのは並大抵のことではないが、使命感を持ってこの仕事を続けてくれているスタッフもいる。そうした気持ちを大事にしながら日々活動している」と山岸さんは話した。
山岸さんは職員に対し「楽しく仕事しよう」と常々言い続けているという。
「我々が重々しい空気をまとうと、利用者に伝わってしまう。明るい雰囲気と気持ちでサービスを提供することが、利用者にとってもプラスになります。そのためにも自分たちが楽しく仕事をすることが大切なんです」(山岸さん)