「ミックスジュース」といえば果物と牛乳が混ざりあい、まろやかな味わいが楽しめる大阪を代表する“ご当地グルメ”。大阪の喫茶店や飲食店で見かけることの多いミックスジュースですが、そもそもなぜ「大阪名物」として浸透しているのでしょうか? 素朴な疑問を抱いた筆者は「梅田ミックスジュース」を運営する『株式会社サカイ』(大阪市北区)の代表取締役社長・井戸辺弘樹さんに話を聞いてみました。
阪神電鉄梅田駅の改札近くに店を構えるジューススタンド「梅田ミックスジュース」は、カップになみなみ注がれたミックスジュースが駅利用者のみならず、観光客からも人気を集めています。
同社の前身である『坂井飲料有限会社』は、もとはラムネなどを扱う飲料メーカーでした。ジュースが噴水状に吹き出す「噴水型ジュース」を西日本で初めて自動販売機で扱ったことでも知られています。ところが大手メーカーの台頭によりジュース販売の事業は一気に縮小、経営の危機を迎えます。そんな中、同社は駅売店のテーブルに新聞を並べただけのエリアに冷蔵ショーケースを設置し、牛乳を一緒に販売する事業を開始しました。この牛乳卸売業がヒットし、なんとか窮地を脱出することに成功したのです。
「元々、先代の社長は飲食店を出店するつもりで初代社長から乞われて入社したのですが、このヒットをきっかけに飲食事業を進めることができました。そば屋・喫茶店と開業したのち『そういえば、昔から不思議とジュースが売れる場所があったよな……』と思い立ち、ジューススタンドを出店することになりました」(井戸辺さん)
その場所こそ、現在同店がある阪神電鉄梅田駅の一角です。創業当時に販売していたジュースは合成甘味料・香料などを使っていたため、せっかくなら果物や砂糖だけを使ったジュースを作ろうということに。さらにもともと取り扱いのあった牛乳を組み合わせ、ミックスジュースを作ってみたところ「安くておいしい!」と評判を呼びました。
そこから、ミックスジュースに特化していき「駅前ジューススタンドの元祖」や「ミックスジュース専門店の元祖」として、大阪の人々から愛されるようになっていきます。しかし、ミックスジュース自体は以前から存在するものだと井戸辺さん。「ミックスジュースの生みの親は、果物屋だった大阪・新世界の喫茶店『千成屋珈琲』。1948年、創業者が残った果物をミキサーにかけたのがはじまりで、そこから大阪中の喫茶店に広まったといわれています」とのこと。
大阪独自のドリンクとして誕生したミックスジュースですが、千成屋をはじめ、各店ごとに定義やレシピはさまざまだそう。「当店では、牛乳と複数のフルーツを使ったジュースを『ミックスジュース』、スイカジュースやメロンジュースなど1種類のフルーツを使ったジュースの総称を『フルーツジュース』としています。いちごミルクやパインジュースなどにも牛乳が入っていますが、酸味強化のためのレモンをのぞけば使う果物は1種類のため、同店の場合はフルーツジュースに分類しています」と井戸辺さんは説明。