「初めて心から『なりたい』と思えた仕事」 吉田玉路さん(人形遣い)【募る!文楽の後継者】(2) | ラジトピ ラジオ関西トピックス

「初めて心から『なりたい』と思えた仕事」 吉田玉路さん(人形遣い)【募る!文楽の後継者】(2)

LINEで送る

この記事の写真を見る(5枚)

――「文楽の道に進みたい」と言ったら、親御さんは何と?

【玉路さん】 賛成してくれました。というか、大学を辞めて家を出て消息不明みたいになっていたから「なんかやるの?良かった!」「何でもいいからやって」みたいな感じ。何でも応援してくれる両親なんです。

――すてきなご両親ですね。無事合格して、研修が始まってからは忙しかったですか?

【玉路さん】 人形遣いの専門課程に入ってからは(※研修生になってからしばらくは専門を決めずにカリキュラムが組まれる)、公演のときはすべての舞台に張り付いていたので忙しかったです。毎日午前11時くらいから夜の8時までやっていたので、体力的にはかなりしんどかった。でも、気持ちはしんどくなかったですね。人形を遣うことが好きでしたから。

『傾城恋飛脚』の「新口村の段」で八右衛門を演じる玉路さん(令和5年1月、国立文楽劇場「新春文楽公演」)同劇場提供
『傾城恋飛脚』の「新口村の段」で八右衛門を演じる玉路さん(令和5年1月、国立文楽劇場「新春文楽公演」)同劇場提供

▽いろいろな人が必要な世界

【玉路さん】 体は疲れるし、時間もないし、いい暮らしができるわけでもない。普通の人が見返りとして得られるものは、正直あんまりないかもしれない。でも僕は全部の時間を文楽に使っていい。本当にそれでいいと思っています。

――「自分を磨く」ということに重きを置いている人にはぴったり、ということでしょうか。

【玉路さん】 そういう働き方をしたい人にはぴったりですね。僕は不器用ながらなんとか頑張ってやる方です。僕みたいなタイプでも、そうでない、気が利いて器用にこなすタイプの人でも、みんなにとって、ここには居場所があります。人形遣いは今、41人。さまざまな物語をやる舞台ですから、メンバーに多様性があった方がいい。いろいろな人が必要な世界です。ただ、人形はチームワークが必要で、臨機応変にちょこちょこ動く必要があります。融通が利くことが求められます。

――玉路さんには文楽の世界が合っていたのですね。

【玉路さん】 僕には合っています。さまざまなバイトをしてきましたが、仕事として今が一番楽しい。朝起きてから夜寝るまで、なんとなく楽しいです。やることはいっぱいありますが、それが嫌ではないので。あまり仕事という感じでやっていないです。

国立文楽劇場(同劇場提供)
国立文楽劇場(同劇場提供)

▽将来設計が描けるような情報を

――現在、文楽の養成制度に応募する人がいません。どうしてだと思われますか?

【玉路さん】 まず、応募した時点で、将来の職業を決めることになるからではないでしょうか。10代の終わりくらいだと多くの人がまだ今後の職業について余裕を持って考えている段階。大学生だと遊びたいと思っている時期かもしれません。研修を経て技芸員になるということはそのまま就職を意味します。だから躊躇(ちゅうちょ)するのでは。しかも普通の会社員と違って、収入面など分からないことが多く、プロになった後の人生設計を立てにくいことが一因かなと想像します。伝統芸能の世界は一般の会社とは違うと思いますが、その辺の説明やケアはあった方が良いかもしれないですね。「5年目くらいになったら大体これくらい収入がある」というような具体的な情報があったら、応募する側としては前向きに検討できるのではと思います。

 もう1つは、文楽が古典で、知らない人は知らないということ。久しぶりに会った学生時代の友だちに、「人形遣いになった」と話すと、ひとしきり聞いた後、「で、これからどうするの?」と尋ねられたこともありました。「いやいや、人形遣いという仕事で」と再度説明しましたが。そもそも職業としてやっていると思われない場合があります。趣味で何かやっている、みたいな。まずは、多くの人に文楽という芸能に親しんでもらいたい。その上で、技芸員としての将来設計が描けるような情報を出していけば、応募する若者が出てくるのではないでしょうか。

――応募を考えている人もいると思います。伝えたいことはありますか。

【玉路さん】 僕は野球やサッカー選手に憧れるみたいに人形遣いに憧れて、この世界に入りました。しんどいこともあるかもしれないけど、悪い仕事ではないです、絶対に。研修のすごいところは、入って2年経つと舞台に立てる人間になっていること。もし文楽の世界に興味があったら、途中で辞めてもいいから、とりあえず入ってみたらいいと思います。

(聞き手・文 青木理子)

◆研修生募集についての問い合わせは、同劇場企画制作課、電話06-6212-5529もしくはメール(bunraku2021@ntj.jac.go.jp)まで。

☆☆☆☆☆

◆「夏休み文楽特別公演」
会場:国立文楽劇場
(〒542-0073 大阪市中央区日本橋1丁目12-10)

日程:7月22日(土)~8月13日(日)
※出演者の体調不良により8月2日(水)~5日(土)まで公演中止。詳しくは公式HPで。
 第1部(午前10時半開演)「親子劇場『かみなり太鼓』『西遊記』」
 第2部(午後1時半開演)「名作劇場『妹背山婦女庭訓』四段目」
 第3部(午後6時半開演)「サマーレイトショー『夏祭浪花鑑』」

観劇料:第1部4800円、学生2400円、18歳以下1900円 / 第2部1等6500円(学生4500円)、2等3800円(学生同額) / 第3部1等5000円(学生3500円)、2等3800円(学生3500円)

予約・問い合わせ:国立劇場チケットセンター 電話0570-07-9900

公式HP

LINEで送る

関連記事