【森本さん】 ジュリーは1980年代に入ってもしばらくヒットが続きましたが、一方で渡辺プロは大変な状況に陥っていました。育ててきたタレントたちが相次いで独立し、業績が急激に悪化し始めていたんです。日本テレビとの関係が悪くなって『スター誕生!』に参加せず、若い才能をよそのプロダクションに取られてしまったのも響いていた。その負担はぜんぶ看板スターだったジュリーにかかってきました。仕事を選んでいられない会社と「俺は歌手なのに、なんでお笑いの仕事なんかさせられるんだ！」と怒るジュリーの間に立たされ、僕もつら辛い思いをしました。
やがて社長（渡辺晋さん＝渡辺プロダクション創業者）から「会社を立て直せるような男性タレントを発掘しろ」と指令がありました。それで1982年、僕はジュリーの担当を外され、新人発掘プロジェクトのリーダーに任命されるんです。結果、1984年にデビューさせたのが吉川晃司ですね。
【中将】 沢田さんとしても森本さんが外れるのは残念だったでしょうね。
【森本さん】 それはわかりませんが、仕事面で負担をかけた挙句、スタッフもごっそり吉川のプロジェクトチームに引き抜くことになったので本当に申し訳ないことをしたと思っています。ジュリーは自分のことだけを考えてくれるマネージャーが必要なタイプ。このあたりの経緯が1985年の独立にも関係しているんじゃないでしょうか。
【中将】 でもそれで沢田さんに次いで、吉川さんのような大スターをものにされたというのがすごいですね。
【森本さん】 吉川はオーディションで郷ひろみさんの『男の子女の子』（1972）を歌っていました。面白いなと思って調べると、なんと地元の広島では将来を嘱望された水球選手らしい。関係先に頭を下げ回って芸能界入りを認めてもらいましたよ。
【橋本】 『男の子女の子』を歌っていたというのがすごいですね……イメージが全然違います！
【中将】 吉川さんはどのような方針で売り出されたのでしょうか？
【森本さん】 ジュリーのマネジメントで学んだことを応用したんですね。とにかくスケールが大きくなけりゃダメだと。その点、吉川は身長が高いし、水球選手だったからスタイルもいい。社長と「映画で、白い煙の中から長い脚を蹴って飛び出してきたらカッコいいよね」と話していて、そのイメージでできたのがデビュー作の主演映画『すかんぴんウォーク』と、主題歌の『モニカ』（1984）です。
印象に残っているのが『ザ・ベストテン』（TBS）の「もうすぐベストテン」というコーナーで出身校の修道高等学校にロケに行ったとき。校舎の屋上からバック転でプールに飛び込むパフォーマンスを成功させる吉川を見て「これで売れた！」と確信しましたね。
【中将】 デビュー当時の吉川さんはどんなキャラクターだったのでしょうか？
【森本さん】 いい意味でイケイケの少年でしたね。来る仕事はなんでもやってやるという意気込みを感じていました。頑固な部分もあって、社長から「歌うときにギターなんか持つな」と言われていて、社長が目の前にいるときだけは従っているんですが、いなくなるとすぐにギターを弾きだす（笑）。
でも結果的にはそういうアーティスト的な部分が見え隠れしていたから良かったんでしょうね。当時は同年代で尾崎豊君とかもいたから、アイドル一辺倒ではなく、そっちに近いイメージで売ることができました。
【中将】 吉川さんは沢田さんのこともすごくリスペクトされていたそうですね。
【森本さん】 スタッフがみんな、もともとジュリーの担当だったので、話に聞くことが多かったんじゃないですかね。ジュリーはスタッフにも愛されてましたから。
【中将】 吉川さんのシングル『すべてはこの夜に』（1986）はもともと、沢田さんのアルバム『NON POLICY』（1984）の収録曲ですが、これも沢田さんが歌う前の佐野元春さんのテープを聴いて「自分に歌わせて欲しい」とリクエストしたという話がありますね。
【森本さん】 吉川は物怖じしないですから。嘘をついたりゴマをすったりということができなくて、周囲にもストレートに生きざまをぶつけるタイプなんです。
【中将】 そういう性格って沢田さんとも共通していますよね。スターの条件ってそういう部分なのかなと感じました。
【森本さん】 たしかにどちらもはっきりした性格ですね。言われたことは好き嫌い関係なく、とりあえずやってみる。でもダメだと思ったらすっぱり止める。そういう二人に接してきたから、僕は「あれが嫌、これが嫌」という人はスターにはなれないと思っています。
