【中将】 僕の経験の中だけでも、NGが多いタレントやミュージシャンは長続きしてない気がします。
【森本さん】 取って来た仕事を断られるとスタッフがやる気を失うんですよ。スターになるのはスタッフの気持ちがわかる人でないと無理です。ジュリーは仕事には厳しかったけど、人情の機微はとてもよく理解している人。先日、ジュリーが主役を務めた映画『土を喰らう十二ヵ月』(2022)を観ましたが、ああいう爽やかで悟りきった芝居ができるのも根本の人間性がしっかりしているからだと思いますよ。
【中将】 『土を喰らう十二ヵ月』は近年の名演でしたね。水上勉さんのエッセイの世界を、自己流の解釈も交えて見事に表現されていました。
【森本さん】 やり遂げた感じというのかな……まだまだいろんな挑戦をしてる方だから、こんなこと言うと怒られるかもしれないけど(笑)。このところの活動を見ていると、ようやく戦うばかりじゃなく人生を楽しめる余裕が出てきたんじゃないかと感じています。ああいう表情を見ることができてうれしいですね。
【中将】 森本さんは吉川晃司さんが芸能界に羽ばたいてゆくのを見届けた後、渡辺プロを退社。1985年には現在、玉山鉄二さんらを擁する株式会社メリーゴーランドを設立されました。
【森本さん】 東京に出て10年、結婚して10年のタイミングです。人生設計として前々から考えていたことで、吉川を育て渡辺プロへの恩返しもできたのではないかと思い独立しました。社名はその頃、娘がよくピアノで弾いていた曲から。ジュリーのヒョウのような眼を持った、チャレンジ精神のあるタレントを育てたいと思い、柏原崇や玉山鉄二を世に出すことができました。
【中将】 玉山さんは10月公開の映画『次元大介』が注目されていますね。タレントではありませんが、お嬢さんの森本千絵さんもアートディレクターとして数々の企画や作品を手がけられています。まさにメリーゴーランドのような人生……!
【森本さん】 還暦記念の時にCDブック『cocolonooto』の企画、装丁をさせてもらったり、映画『キネマの神様』(2021)への出演交渉をさせてもらったりと、娘もジュリーに関わる仕事をさせていただくことができました。人の冠婚葬祭にはあまり出席しないことで有名なジュリーですが、僕の結婚式、娘の結婚式には両方出席してくれているんですよ。父子で本当にいいご縁を結ぶことができ感無量です。
■森本精人(もりもと・よしひと)
1946年生まれ。兵庫県丹波篠山市出身。 早稲田大学卒業後、渡辺プロダクションに入社。ザ・ピーナッツ、沢田研二らのマネジメントや、吉川晃司の育成に携わった後、1985年に芸能プロダクション・メリーゴーランド設立。玉山鉄二ら数々のタレントを手がけている。
※公開収録イベントでは観客から森本さんへの質問コーナーを設けました。以下に一部を紹介します。
――ジュリーは嫌いな歌として『OH!ギャル』を挙げています。理由、きっかけなどあるのでしょうか?
【森本さん】 初めから嫌がってました。『ギャル』という歌詞が嫌だったようですが、当時、阿久悠さんは絶対的な存在で歌手が作品にダメ出しをするなんてあり得ませんでした。
――吉川晃司さんのファーストアルバム『パラシュートが落ちた夏』(1984)のタイトルは、(『TOKIO』のパラシュートとかけて)ジュリーのことを暗喩しているのですか?
【森本さん】 それはまったく関係ありません。当時は制作陣に共通のスタッフも多かったので、あえてジュリーをおとしめるようなことはあり得ません。
――お嬢さんの結婚披露宴でジュリーを目の前で『勝手にしやがれ』を歌ったと聞きましたが。
【森本さん】 親への感謝の言葉を伝えるようなコーナーで急に白い帽子を渡されて、いきなり『歌ってくれ』と言われました。ジュリー以外にもゆずのメンバーとかユーミンとか、そうそうたる出席者の前ですよ。緊張で歌詞を間違えたりめちゃくちゃになって、最後に『ジュリー、ごめんなさい』と謝りました(笑)。