プロ野球・阪神戦や高校野球の名実況でおなじみのアナウンサーが、今夏から神戸の“上方落語の定席”、神戸新開地・喜楽館の支配人に就任しました。還暦からの“二刀流”に挑戦するだけでなく、現在、同館では港町からさらに落語を盛り上げようと、新たな賞レースも進めています。
大阪・ABC朝日放送の看板アナウンサーの1人であり、喜楽館の支配人としても活動する、伊藤史隆さん(60)。このたび、局の垣根を超えて、神戸のラジオ局・ラジオ関西の番組『笑福亭鉄瓶のまんてんラジオ』10月2日放送回にゲストで登場しました。その生放送では、落語をはじめとする演芸を神戸の地から活性化したいという胸中を語りました。
愛知県名古屋市出身、神戸大学を経て、1985(昭和60)年に朝日放送へ入社した伊藤さん。野球実況では豊富な実績を積み、ファンをとりこにする名アナウンスの数々で、お茶の間の支持を集める関西を代表するアナウンサーの1人です。また、大学時代に落語研究会に所属するなど、落語への造詣も深く、落語の番組も担当しています。
その伊藤さんは、今年4月から喜楽館の支配人見習いに、そして、7月11日の喜楽館開館5周年のタイミングで正式に支配人に就任しました。そのきっかけは、伊藤さんが定年になったこと。再雇用という形でアナウンサーを続けることは決まっていたなか、それまでも関わりがあった喜楽館から「ちょっと仕事を手伝ってくれないか」という話しがあったそうです。
「僕はもともと神戸の大学で落語を覚えて、そこからスタートしてアナウンサーになりました。“還暦”とうまいこと言ったものですが、1周まわって(60になって)、僕は神戸に住んでいることもあり、神戸の寄席のお手伝いができるならいいかなと思ったのです」
ただし、実際にオファーされた役どころは、同館の支配人の話。伊藤さんは、「『いや、それはさすがにできませんよ!』と最初、かなりの勢いで断りました」と言います。
「何かうまいこと使ってもらったり、イベントに行くなど、そういうことは喜んでやりますが、アナウンサーはいろんな人に段取りを作ってもらって、そこに乗っかって仕事をするもの。いわゆる裏方の仕事はやったことがないので無理ですと言っていたのですが……」
それでも、喜楽館側も伊藤さんに粘り強く交渉。「実情を聞いていきますと、ここは正直に言いますが、2018年7月に喜楽館がオープンして、開館して1年ちょっとでコロナがきてしまって、なかなかお客さんの入りが厳しいと。神戸の街自体も歩く人が少なくなったりして……。そのなかで、『なんとか新開地のよさを知ってもらい、喜楽館の魅力を知ってもらうためには、とにかくやれることをなにがなんでもやりたい』と(喜楽館側から)言われたので」。
その熱い思いを受けた伊藤さんは、「なにができるかわからないですが、いなかったより、いたほうが“足し算”になるのではと思い、最終的には引き受けさせていただきました」と承諾。還暦からの異例の“二刀流”がスタートすることになりました。
支配人としては、「お客さまに来ていただくために、一番魅力的な番組作り(出演者の順番決め)をすることと、お客さまがどうやって喜んでいただくかという場の雰囲気づくり。大きくいえば、この2つ」を行っている伊藤さん。その新支配人のもと、早速、新たなイベントも行われています。それが、上方落語の次代のスターを選ぶ「神戸新開地・喜楽館AWARD2023」です。
同コンクールは入門16年目から25年目までの上方の落語家を対象に、観客が審査し、頂点を決めるというもの。「東京で(落語の)真打ちという制度で昇進されるのが、だいたい入門15、16年目くらいの方から。そこから10年目くらいということは、まさに(現在の)ニューリーダー。その方々がみんなで競い合っている様子を、お客様にそれを見てもらえれば」「今後、ベテランの方のお力も大変必要ですが、その辺の世代の方が先頭になってダーッと走っていただいて、喜楽館もにぎわうようなことにならないかな」という思いがイベントにつながりました。