鉄鋼大手・神戸製鋼所(本社・神戸市中央区)が敷地内で増設した石炭火力発電所2基について、住民らが稼働中止を求めた民事訴訟の控訴審・第1回口頭弁論が10日、大阪高裁で開かれ、被告側は棄却を求めた。
原告は34人。2023年3月20日の神戸地裁判決は、一般論として石炭火力発電所が排出するCO2が、気候変動に悪影響を与えるなどの危険性は認めたものの、「実際に生命、身体、健康を害されるほどの被害に遭うか否かは、様々な不確定要素に左右される」「被害を回避するために国内外で地球温暖化対策が進められている」などと指摘、住民の生命、身体に具体的な危険は認められないとした。
そして「神戸製鋼側の取り組みで、大気汚染物質の排出量の低減が見込まれる」とした。原告らはこの判決を不服として、同年4月1日付けで控訴した。
原告が稼働中止を求めている2基は、神戸製鋼所・神戸発電所3号機(2022年2月運転開始)と4号機(2023年2月開始)。出力は計130万キロワットで関西電力に電力を供給している。
弁護団は、日本で排出されている二酸化炭素の約4割が火力発電所から出され、特に石炭火力は天然ガスの2倍ものCO2を排出すると指摘している。神戸製鋼の2基で石炭を燃焼して排出されるCO2(二酸化炭素)については、年間約692万トンと算出。
この2基は、明らかにCO2の巨大排出源であり、神戸市灘区の住宅地から約400メートルしか離れておらず、窒素酸化物などの環境汚染物質の放出量が増え、温暖化を通じた被害や健康被害により平穏に生活する権利が侵害されると主張し、一審では稼働差し止めなどを求めていた(2基の稼働は一審の審理中に開始した)。
一審ではこれに加え、CO2排出を段階的に減らすことも求めていたが、控訴審では、より現実に即した主張として、2030年4月1日以降、排出量をその2分の1に当たる年間346万トンを超えて大気中にCO2を排出しないよう、請求内容を変更している。
これについて弁護団は、2030年という期限を、国連の「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)が2023年3月に出した報告書などを鑑みて、「温室効果ガス排出半減」という目標を設定した重要な基準となる年と位置付けた。さらに2035年、世界全体で60%の削減(2019年比・CO2は65%の削減)が必要だとする同報告書の目標などに照らせば、この先約10年間での排出削減状況が未来を左右するとしている。そのうえで気温上昇を1.5度以内に抑えることができると主張する。
一方、被告側は、「平穏に生活する権利が侵害される」とする原告の主張について、「新発電所の設置計画について、環境影響評価手続き(アセスメント)が適正に行われ、関係する法令にも適合している」と反論している。
原告側は、「法的に保護できる対象になるべき深刻な不安につながるものではない」という趣旨の一審判決の判断について、「単に”将来の不確定な不安”ではなく、具体的な危険(生命や健康が高い確率で侵害される)があることを理解されていない」点を挙げた。
こうしたことを踏まえ、原告弁護団長の池田直樹弁護士は閉廷後、大阪市内で開かれた報告会で「『不安やリスクがある』というだけでは(稼働を)止められない現実のなか、ズルズルと流されるのではなく、これからの時代を生きる子どもたちも含め、”生活自体が変わってしまう危機感”を裁判所に理解してもらいたい」と訴えた。