大人から子どもまで幅広い世代になじみのあるハヤシライス。デミグラスソースベースのコクのあるルーとごはんがよく合う、人気メニューの一つです。
そんなハヤシライスの「ハヤシ」が一体何を指しているのか、考えたことはありますか? 歴史や背景には何があったのでしょうか? 今回は、身近だけれども意外と知らないハヤシライスについて、雑誌『Meets Regional』の元編集長で神戸松蔭女子学院大学教授の江弘毅さんに話を聞きました。
――そもそもハヤシライスが生まれた背景は?
【江さん】 神戸の洋食店で言うと、「外国航路の客船の料理」が系譜の一つと考えられています。飛行機が普及していなかった時代には、船が海外への移動手段として用いられていました。神戸には今でも、旧日本郵船神戸支店(現:神戸メリケンビル)や神戸商船三井ビル(旧大阪商船神戸支店)などがあります。
当時の客船は、中にショッピングセンターや劇場、スポーツ施設が入っているような大変豪華なもので、厨房にいるコックさんたちは料理人の中でもトップレベルでした。
そんな客船の中でよく作られていたのが煮込み料理。なぜなら、(大量の油を使う)揚げ物だと(船の揺れで油がこぼれて引火し)火事になるかもしれないからです。
やがて陸に上がった客船のコックさんたちの流れが、現在の神戸の洋食店につながっています。例えば、レストラン「ハイウェイ」(神戸市中央区、2010年閉店)は日本郵船の浅間丸のコックさんが開いたお店でした。
――船で出されていた料理が陸に上がってきたのですね。ずばり、「ハヤシ」とは何なのでしょうか?