「働く人」をテーマとした展覧会「―小磯良平生誕120年特別展 働く人びと 働くってなんだ?戦後/現代の人間主義(ヒューマニズム)」が神戸市立小磯記念美術館(神戸市東灘区)で開かれている。12月17日(日)まで。
戦後から現代にかけて、日本の29作家が手掛けた作品約120点を6章仕立てで紹介。昭和を代表する洋画家、小磯良平(1903~1988年)の最大の画「働く人びと」(194センチ✕419センチ、1953年、同館)が5年ぶりに公開されているのをはじめ、社会状況や作者の関心を反映した多彩な作品群が「働くとは」「生きるとは」を鑑賞者に問いかけてくるラインアップだ。
小磯の「働く人びと」は、神戸銀行(当時)本店営業部の新館落成にあたって委嘱された壁画。農業や漁業、建設業に携わる人々、幼い子と母らが西洋の古代彫刻のような趣で並び、背景には抽象的に描かれた神戸の街並みが見える。小磯は1950年代、同じ主題で「麦刈り」(1954年、姫路市立美術館)「働く人と家族」(1955年、兵庫県立美術館)などを描いた。小磯が一つのテーマで何年にもわたって創作を続けたのは、「踊り子」などの具体的なモチーフを別にすれば、「働く人」以外にはなかったという。展覧会では、「働く人びと」の制作過程で生まれた興味深い素描作品も多数展示されている。
多田羅珠希学芸員は「小磯のみならず、戦後、『働く人』を題材とした作品はさまざまな画家によって同時多発的に描かれた。それらの作品の中には、戦争の破壊と混乱を経た中で、画家たちの目が社会へと向かい、彼らが『現代美術家』であろうとした中で生み出されたものもあった」とみる。
そのような、時代の記録としても興味深い作品の一つが内田巌(1900~1953年)の「歌声よ起これ(文化を守る人々)」(1948年、東京国立近代美術館)。大手映画制作会社で起こった労働争議「東宝争議」に取材したもので、赤い旗の下、老若男女が真剣な面持ちで同じ方向を見つめている。ほとんどの人物が横顔ながら、闘う労働者たちの情熱がまっすぐに伝わってくる傑作だ。
新海覚雄(1904~1968年)の「構内デモ」(1955年、国鉄労働組合)は、制服姿の若者たちが腕を組み、線路の上を行進する姿を捉えている。明るい表情と躍動感あふれる姿勢が、登場人物の一体感と未来への希望を感じさせ、全体としてすがすがしい雰囲気が漂う。働くという行為に、仲間意識や理想の追求が色濃く重なっていたことがうかがえる。