日本の食文化は東西で大きな違いがあります。なかでも「そば・うどん」はその手の話ではよく話題に上がります。指向性として「関東はそば」「関西はうどん」という印象が強く、専門店もそれぞれの地域にかたよる傾向がある.....とまことしやかに言われていたりもします。関西圏でもとりわけ大阪ではうどん文化が栄えており、メジャーなものでは甘辛く炊いた油揚げをのせた「きつねうどん」、関東では耳慣れない“油かす(牛や豚の腸をカラカラにあげたもの)”をちらした「かすうどん」などバラエティ豊富。店でうどんのメニューを見るだけでも楽しいものがあります。
さて、そのメニューの中に「かちんうどん」なるものを見かけたことはないでしょうか? 透き通ったつゆに泳ぐうどんの上に「ドン!」とのった餅がインパクト大なルックスなのですが、疑問なのが「かちん」とはいったい何なのかということ。同じく餅入りうどんを指す「ちからうどん」の場合は「力持ち(もち)」から派生しているという説がありますが、かちんうどんはなぜそのような呼び名になったのでしょうか。1946年(昭和21)から大阪・道頓堀でうどんを作り続けてきた老舗『道頓堀 今井』に話を聞いてみました。
「 “かちん”は公家言葉で餅を意味する『喝飯(かついい)』が由来だといわれています。『かついい』を宮廷の女性達が『おかちん』と呼ぶ様になり、そこから『かちん』に変わっていったと聞いています。現代で“かちん”と聞くと、頭にきたときの擬音や物がぶつかった際の音を想起しますが、そのどちらでもなく大昔の公家言葉が由来なのだそうです」(道頓堀 今井)
同店のかちんうどんには、餅のほかに青ネギも入っています。他店をチェックしてみると、ニンジンやかまぼこ・しいたけ・卵・あんかけなど、大前提である餅以外の具は実にさまざま。「ちからうどん」と呼ぶ店もあり、呼び名が異なるのは地域差によるものなのでしょうか?
「 どちらの呼び名を使うかは店によりけり。また、餅以外の具材も地方ごとではなく店や家庭といった小規模単位の違いではないでしょうか」(道頓堀 今井)
汁に餅が入っている料理としてパッと思いつくのは正月の雑煮ですが、かちんうどんはどんな時に食されているのでしょうか。同店いわく「年間通してよくオーダーされています。かちんうどんそのものよりも、きつねうどんや鍋焼うどんなどのトッピングとして『かちん』を追加されるお客様の方が多いかも知れません。一般のご家庭の場合、お餅をうどんに入れて食べるとしたら、やはり正月が多くなるでしょう。その場合、なにかのお祝いが目的というより“残ったお餅を食べる工夫”といえるかもしれませんね」とのこと。
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“炭水化物×炭水化物”のかちんうどんは「これぞ大阪」というようなパワフルな一品といえます。かちんうどんに馴染みがないという人は、お正月にチャレンジしてみるといいかもしれませんね。
(取材・文=つちだ四郎)
◆道頓堀 今井(本店)
542-0071
大阪府大阪市中央区道頓堀1‐7‐22
電話番号 06-6211-0319
営業時間 11:30~21:30(LO 21:00)
道頓堀 今井 公式サイト