文部科学省は播磨科学公園都市で理化学研究所が運営する大型放射光施設「SPring(スプリング)-8」(佐用町光都)の性能をさらに高度化するプロジェクトに5か年で取り組む。
Spring-8は、光と同等の速度まで加速させた電子の進行方向を磁石で曲げた時に発生する極めて明るい光「放射光」を用い、ナノ領域(1メートルの10億分の1レベル)で物質の構造や性質、化学反応の様子などを詳しく分析できるようにした先端重要基盤。名称はSuper Photon ring-8GeVの略で、Gevは電子ビームの蓄積エネルギーの単位、8Gevは80億電子ボルトを意味する。
1997年の供用開始当時から世界最高性能を誇り、これまで、生命科学、環境・エネルギー、新材料といった様々な分野で大学や企業などの研究開発を支えてきた。2022年に小惑星探査機「はやぶさ2」が回収した小惑星リュウグウの形成進化の解析に成功し、話題を提供したことも記憶に新しい。
しかし、運転開始から25年が経過し、運転にかかる電気代や保守コストは年々増加。また、欧米で同様の大型放射光施設の性能更新が進み、中国でも新規建設が始まったことから、「Spring-8がこのまま陳腐化すると、わが国の研究者は海外施設に頼らざるを得ず、施設利用に際し他国に研究内容を開示する結果になる」と、経済安全保障上でも老朽化が危惧されるようになっている。このことから、次世代半導体の量産やGX社会への動きが大詰めを迎える2030年までにSpring-8を「Spring-8-Ⅱ」として性能更新することにした。
計画では、現在の老朽化した光源加速器を新開発のシステムに置き換え、放射光の明るさを現状の100倍にアップグレード。これにより、明るさは米国の施設を2倍以上上回って世界第1位になる。実験の能率が大幅に向上し、現在なら3年間かかる高精細なデータ取得期間が5日間に短縮できるという。また、加速エネルギーを6Gevに下げるなどして、消費電力の大幅低減も実現させる。現在、年間20〜30億円かかっている電気代を約10億円削減できるようにするという。新名称の「8-Ⅱ」は8マイナス2Gevを指す。
スケジュールは初年度(2024年度)にプロトタイプ製作と実証実験、2年目から整備・建設に入り、約1年の運転停止を経て2029年度に供用開始の予定。
総事業費は約480億円と見込んでおり、国は初年度事業費として、新年度予算案に3億円を計上している。完成後は、半導体産業への貢献、富岳と連携したデータサイエンスの展開、社会インフラの強靱化、カーボンニュートラル達成に向けた研究開発など、わが国経済への大きな波及効果が期待されている。
(取材・文=播磨時報社)