スーパーで購入した野菜や果物、皆さんはどのように洗っていますか? ほとんどの人は「水洗い」と答えると思います。なかには、「洗わない」という人もいるかもしれません。
実はかつて、野菜や果物を「洗剤」で洗っていた時代があったんです。今では考えられない方法ですが、戦後間もない時代には当たり前に行われていたそうです。そんな当時の様子や洗剤の歴史について、ライオン株式会社・コーポレートコミュニケーションセンターの中澤さんに話を聞きました。
―――どうして洗剤で洗っていた?
【中澤さん】 端的に言うと、当時は野菜や果物を食べることに衛生面の課題があったためです。食生活の変化により、戦後の日本では生野菜を食べる習慣が広がっていきました。しかし、当時はまだ肥料に人糞を使うことが多く、そのために野菜に付着する寄生虫卵による食中毒が社会問題となり、対応が必要になっていました。そこで、1956年に、当時の厚生省から“野菜・果物および食器類の洗浄に使用できる洗剤”の開発を要望されました。
―――国からの指導で洗剤を使っていたんですね。
【中澤さん】 それまでは、現在と同じく野菜や果物も水洗いが基本だったようです。健康被害の増加をうけて国からの要望がありましたが、当社はそれまでに石鹸や洗濯用洗剤を作っていたため、そのノウハウを生かして粉タイプの台所用洗剤「ライポンF」を開発しました。この商品が日本で初めての「野菜・果物・食器」を洗える洗剤として、台所用洗剤の先駆けとなりました。
―――当時としては画期的な洗剤だったのでしょうか?
【中澤さん】 行政は食器・野菜洗い洗剤の普及に力を入れていましたし、当社でも一般家庭のみならず飲食店へも宣伝活動などを行った結果、「ライポンF」の売上も発売から5年間で20倍以上になりました。
同商品の開発前の1955年は、日本人の寄生虫保有率は30パーセントだったのですが、開発から10年ほどたった1965年には2パーセント台にまで下がりました。この「野菜や果物を洗剤で洗う」という習慣を作ったことで、衛生環境の改善に大きな貢献をもたらしたといえると思います。