様々な働き方が増える中で、視覚障がい者の働く環境も変わってきている。神戸市中央区にある神戸アイセンター・ビジョンパークでは、ロービジョン(見えない、見えにくい)のケアに関する情報を提供し、様々な働き方を紹介している。運営する『公益社団法人ネクストビジョン』(神戸市中央区)の常務理事・和田浩一さんに話を聞いた。
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ネクストビジョンは視覚障がい者への支援、ロービジョンケアの情報をビジョンパークを拠点にして発信を行う。このビジョンパークはテニスコート二面ほどの広さがあり五つのエリアに分かれているが、エリアの間にはあえて段差がある。通常だと、バリアフリーを意識した公共施設などでは段差をきるだけ少なくするが、ビジョンパーク内にはあえて段差を設けているという。これは、見えにくくなった人が社会に出て生活をする場合に、日常生活において段差のない空間というのはなかなかないからだという。
「実際に段差があっても、視覚障がい者が使う白杖という杖があれば、段差はしっかりとわかります。段差があることがわかっていれば、段差はバリアにはならないんです。これを認識していただき、視覚障がいで本当に困ることが何なのかを社会の人たちには伝えたい。さらに、段差は杖を上手く使えばクリアできるため、これを乗り越えることで利用者に自信を持っていただくという狙いがあります」(和田さん)
続けて和田さんは、「病院で治療を受けた結果、完治せずに見えにくさが残る人もいるため、その場合に病院でできることはないと終わるのではなくて、寄り添って社会の中で一緒に歩んでいくことが大切です」と話した。
ビジョンパーク内にはIHのコンロや電子レンジなどがあるエリアがあり、料理をすることが可能。さらにクライミングの壁を設置。通常の壁と違ってホールドという突起の部分の中にLEDが光っているのが特徴で、光を認識できる程度の視力があれば全身運動のクライミングを楽しむことができリハビリへの活用や運動機会拡大などが期待される。
和田さん自身も視覚障がい者で、昔は見えていたが30歳で文字が読めなくなった。そこから徐々に見えなくなり、現在は光も感じなくなっているのだそう。「目が見えないと働けないと思ってしまう人が多い。当事者自身もだが、周囲の人も『見えないから、こんな仕事は大変だよね』『あんまり無理させないほうがいいよね』と優しい気持ちで言う人もいるが、実はそうではない」と和田さんは解説する。パソコンで読み上げ機能なども発達した現代、実際に目が見えなくても働ける場はたくさんある。
こうしたことを知ってもらうためにネクストビジョンでは例年2月に視覚障がい者・ロービジョン者の働き方を発信するイベント「isee! “Working Awards”」を実施。過去には目が見えなくなり現場に出られなくなった消防士が119番通報を受ける司令センターで活躍している事例や、漫画家・医師の事例も紹介した。
ビジョンパークのキャッチフレーズは『見つめて、つながる、楽しい明日。いっしょにいこう、明るい未来』。
和田さんはこのキャッチフレーズを紹介しながら最後に、「すべての人が情報や社会とつながる機会を提供し、笑顔で前を向いて進んでいきたいというのが私の願いであり、このビジョンパークの思いです」と締めくくった。
※ラジオ関西『こうべしんきん三上公也の企業訪問』2024年1月23日放送回より