社会の大きな課題の一つに“後継者問題”が挙げられる。中でも、日本の企業のうち99.5%を占める中小企業では深刻だ。特に60代以上の高齢経営者の企業では、後継者を据えられていないケースが一定数存在するという。そのような中、みなと銀行(神戸市中央区)と一般社団法人ベンチャー型事業承継(東京都千代田区)が協同で立ち上げた、若手後継者のための新事業創出プログラムの発表会が15日、神戸市内で行われた。
家業の若手跡継ぎに特化した、約9か月間の新事業創出プログラム「SENJIN」。みなと銀行によると、5年後、10年後を見据えたアイデアの創発と具体化を集中的に支援するもので、プロジェクト名には「先陣を切って一歩踏み出すための『“決意(想い)”と“武器(構想)”を手に入れる」との意味が込められている。
15日に開催された「SENJIN 1期ピッチ大会 in 神戸」(以下、1期ピッチ大会)では、兵庫県の未来を担う12人の跡継ぎが、プログラム第一期生として学んだ集大成として新規事業を発表した。
伊丹老松酒造株式会社(兵庫県伊丹市)の重村侑哉さんは会社の法被を着て登壇。「ロゼワインのような日本酒で清酒発祥の地・伊丹からトレンドを作る」というテーマで発表を行った。
以前は医薬品メーカーで研究開発を行っていたという重村さんは、「ハイレベルな製品開発を経験したので、面白いお酒を造れるのではないか」との思いを抱いたそう。日本酒の消費量が減少する、一方ワインの消費量は増加していることに目を付け、ロゼワイン風の日本酒を造ることを目指している。古代米で醸造するとピンク色になり見た目も美しいことから、「ワインを扱う飲食店で出してもらい、販路を広げていきたい」と意気込んだ。そんな重村さんが質疑応答の最後、「実はお酒を飲めないんです」と明かすと、会場は笑いで包まれた。
「製造業の人手不足を解決する方法」をテーマに発表したのは、株式会社田井鐵工(兵庫県西脇市)の田井甫さん。田井さんは大学卒業後に同社へ入社。営業、人事、製造など経理以外すべてを担当してきた中で、「強烈な人手不足で困った」のだという。そんな苦境の中で出会ったのが、ミャンマー出身の優秀なエンジニアたちだった。外国籍従業員の割合を増やすことで日本籍従業員数を圧縮、さらには売上の増加を達成した。
そして田井さんは、「培った採用のすべてを、同じ製造業で困っている企業にシェアしたい」との思いから、外国人財ソリューション“タイリク”を立ち上げた。田井さんは「タイリクの力で人手不足のない未来を」という言葉で発表を締めくくった。
大会を終え、同プログラムに立ち上げから関わってきたみなと銀行地域戦略部部長の楡井義丈さんは、「(約9か月の)期間が進むごとに参加者の目の色が変わっていった。最終的にこんなにすごい発表をするなんて驚いた」と成長を見届け、涙をにじませた。
今後も同プロジェクトは続けられる。楡井さんは「次世代の後継者の交流の場を作り、その地域を盛り上げていくためのスタートを切ることができました。この先は1期生、2期生、3期生と続けて、交流も行っていこうと考えています」とプロジェクトの将来を展望した。
※参考:2023年版「中小企業白書」(中小企業庁/2023年6月30日更新)
(取材・文=バンク北川 / 放送作家)