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1970年代、カラーで撮影できる技術が確立されていたため比較的鮮明な映像で当時の様子を知ることができるし、親世代の身近な大人から直接話を聞くこともできる。とはいえ、「1970年大阪万博」というイベントに関していえば、その時、その場にいないと体験できない感覚があったのではないかと思う。
いくら映像を見たり人から話を聞いたりしても、万博の雰囲気や高揚感をそのまま味わうことは難しい。ただ、今回は当時の人も見ていたポスターという媒体を通して、今までと違う視点から、1970年という時代と大阪万博について考えることができた。
まず驚いたのは、チケットの販売方法。「世界旅行のパスポート、もうお求めになりましたか?」という文言が書かれた宣伝ポスターには、チケットの販売場所として旅行代理店や鉄道の駅に並んで、近畿のたばこ小売店が挙げられていた。
インターネットでチケットを購入することが当たり前になった今では、チケットを購入しに行くという行為自体が少なくなってきている。でも、当時の人はそれがごく当たり前なことで、しかもたばこ店でもチケットを販売していたということは今では考えられないと思う。これも1970年代なのか?
今回の展示で大半を占めていたポスターは、万博会場内外で行われる音楽イベントの宣伝に関するものだった。印象的だったのは多種多様なジャンルの音楽イベントが、万博の開催期間中、ひっきりなしに行われていたということだ。それらのポスターを見ていると、万博が科学の進歩を人々に紹介するという側面だけでなく、芸術の祭典という側面もあったということがわかる。
万博の芸術といえば「前衛」という印象が強かった。音楽に関しても前衛音楽に力を入れていたのかなと思っていたが、クラシックコンサートのポスターが多かったことが意外だった。大阪・中之島にあるフェスティバルホールでは、日本だけでなく、海外から多数の交響楽団が訪れ、ほぼ毎日のようにコンサートが行われていた。あまりの過密日程なのでいつリハーサルをしていたのかということに疑問を持った。
また、有名な交響楽団を多数日本に呼ぶことができた資金力があったのか、料金が比較的安価だったことに驚いた。これは良質な音楽を”生”で体験する機会を一般の庶民にも与えたいという開催者側の意図があったように思う。
大阪万博期間中は、このような音楽イベントのポスターが駅や街中に代わる代わる掲載されていたのではないかと思う。世界を見渡しても、こんなにコンスタントに音楽イベントが行われていた場所はなかったのではないだろうか。1970年の大阪は、音楽好きにとって、最もワクワクする場所だったに違いない。
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【甲南大学人間科学研究所_ART・公式X】
【アート・ドキュメンタリー映画「EXPO’70前衛の記憶~アコを探して」製作報告】