平田オリザさん(劇作家・演出家)のラジオ番組(ラジオ関西『平田オリザの舞台は但馬』)に、小説家の玉岡かおるさんが出演。新刊『さまよえる神剣(けん)』(新潮社)の制作秘話や、講演会・舞台出演など多岐にわたる活動について語った。
今年、作家生活35周年を迎えた玉岡さん。今春には、第41回新田次郎文学賞、第16回舟橋聖一文学賞をダブル受賞した作品『帆神(ほしん)北前船を馳せた男・工楽松右衛門』(新潮社)の舞台として登場する名刹・十輪寺(京都)に玉岡さんの文学碑が建立された。
玉岡さんは「地元の方々の熱意で建てていただいた」と感謝を述べたうえで、次のように語った。
「誕生のきっかけは、『地元が輩出した発明家・工楽松右衛門で小説を書いてほしい』という、高砂市観光交流ビューローからの依頼でした。それまでは時代と運命に翻弄されながらもたくましく生きた女性を主人公に書くことが多かったので、私にとっては新たなチャレンジ。コロナ禍で遠方での取材が思うようにできなくなったことも、『ならば、身近な歴史は(加古川在住の)私が描くべきだ』と追い風になった。生きて自分の碑を見ることができる作家はいない。本当に光栄なこと。(この碑が)日本の文学・歴史ののぞき穴になれば」(玉岡さん)
今年4月に上梓された新刊『さまよえる神剣(けん)』(新潮社)も、玉岡版・平家物語ともいえる意欲作。「日本における価値観や美学の違いはこの時代から生まれたのではないか」という考察のもと、徹底的に調べあげられた史実に、神話や落人伝説などが重層的に織りなす歴史ロマンは、早くも多くの読者を魅了している。
地元・播磨への愛もたっぷりだ。「『壇ノ浦に行くのに明石は省けない(笑)!』と、今回も丁寧に播磨を描きました。女性主人公とは違い、男性は移動の制約がないのも楽しいですね。若くて力強いイケメンを描いてみるなど、今回はギリギリまで遊んでみました。“平家を描くこと”、“森羅万象の見えない力に敬意を払うという日本文化を伝えること”、これら2つを描ききれたのではと思っています」(玉岡さん)
これを受けた平田さんは、劇作家・井上ひさしさんのエピソードを交えつつ玉岡さんの作品をこのように評した。
「井上ひさしさんは毎回、1作品書きあげるために巻物のような年表を書くんです。『そんなことをするから初日に遅れるんだよ』と思うのですが(笑)。『オリザ君、年表の隙間を描かないといけないんだよ』とおっしゃる。玉岡さんの作品は、まさにこの“隙間”をしっかり描いていらっしゃいますね」(平田さん)