雰囲気学だけでなく、近代ドイツ文学(ゲーテ)やヨーロッパ思想史を専門分野とする久山さん。雰囲気を具体的に把握するには、感じ方の違いを国際的に比較し、異文化との対話から、雰囲気にまつわる言葉を整備する必要があると指摘します。
「ドイツでは『気が合う』をうまく訳せる言葉がありません。理解しあえる、考えがわかるといった意味合いの言葉になってしまい、ニュアンスが違います。日本語のまま『ki』と論文に書いて、ドイツ語で説明を試みてきました」(久山さん)
内側にある心の動き、外側に漂うもの、その両方を指す『気』という概念は、ドイツでは一般的ではないとのこと。このように、国内外の雰囲気の捉え方を分析することで、必要な言葉の整備につながります。
実際、久山さんはこれまでドイツ語にはなかった「居心地が良い」「悪い」という意味の「ホモスフェーレ」「ヘテロスフェーレ」という新語を生み出しています。この研究が進めば「この感じ、何って言ったらいいの?」がなくなっていくかもしれません。
「ビジネスの場で『この企画の空気感、いいと思います』という意見は、あいまいな個人の主観として軽視されることもあるかもしれません。しかし一方で、会議や時代の雰囲気によって責任の所在がわからないまま重要なことが決まることもあり、いわゆる『場の雰囲気』には共通して感じられる客観的な側面もあります。丁寧に『雰囲気』のもつ力を言語化していくことで、これからのAIの時代に、生きた身体を持たない人工知能に対して雰囲気を感じる人間らしさを再認識することができるはず」と、久山さんは研究の意義を語ります。
我々が雰囲気とうまく関わっていくためにも、これからの研究の発展に期待するばかりです。
※ラジオ関西『Clip』2024年8月21日放送回「トコトン兵庫!」より