【橋本】 アイドルソングっぽいのにすごい東北なまりですね(笑)。これは……。
【中将】 お気づきの通り、吉幾三さんのデビュー曲でした(笑)。
【橋本】 白いスーツにちょっと髪も長くて……初めはこんなスタイルでデビューされていたんですね!
【中将】 民謡歌手のお父さんのもと、青森県に9人兄弟の末っ子として生まれた吉幾三さん。歌手にあこがれ、中学校卒業後に上京。作曲家の米山正夫さんに師事し、1973年にアイドル歌手としてリリースしたデビュー曲が、この『恋人は君ひとり』です。
【橋本】 お名前も全然違うんですね。
【中将】 ヤンマーディーゼルのCMソングだったので、ヤンマー社長の名字「山岡」とエンジンを無理やり「エイジ」にして、つなげたんだそうです。結局売れませんでしたが、1977年に吉幾三として再デビューして以降のご活躍は、みなさんご存知の通りです。
男性が2人続いたので、その次は女性スターの意外なデビュー曲をご紹介します。中島淳子さんで『小さな恋』(1971)。
【橋本】 これはまた、ねっちょりした歌い方ですね……。歌からはわかりませんでしたが、レコードジャケットを見てわかりました。夏木マリさんですね。
【中将】 『絹の靴下』(1973)などセクシーな歌謡曲や、個性派女優としての活動で知られる夏木マリさんですが、実はレコードデビューは1971年、19歳の時に本名の中島淳子名義でリリースしたこの曲でした。
【橋本】 舞台版『千と千尋の神隠し』の湯婆婆や、Uber EatsのCMのイメージなので、ジャケットの白いフリフリのドレス姿はすごいギャップでした!
【中将】 そうなんです。楽曲も清純派ポップスで、アイドルっぽく売り出そうとした形跡があるのですが、いかんせん夏木さんのねっとりセクシーな歌い方がそれをぶち壊してしまっていて、なんとも珍妙な仕上がりになっています。
【橋本】 ぜんぜん『小さな恋』って感じじゃないですもんね。男女の複雑な情念が感じられて……(笑)。
【中将】 夏木さんはグループサウンズ好きでザ・テンプターズを追いかけたり、ジャニス・ジョプリンにも憧れていたそうです。ロック志向すぎてアイドルは向いてなかったのかもしれませんね。
【橋本】 ちなみになぜ「中島淳子」から「夏木マリ」になられたんでしょうか?
【中将】 『絹の靴下』で再デビューするにあたり、夏だったので「夏に決めよう」ということから命名されたそうです。本人は嫌だったらしいですが。先ほどの吉幾三さんにしたって、再デビューの時に知らない間にスタッフがテキトーに付けた名前だそうですからね(笑)。なにが上手くいくかなんてわからないもんですね。
【橋本】 本人が知らないうちに(笑)。そんなことってあるんですねぇ。
【中将】 次にご紹介するのは、独特の芸名で活躍する方のデビュー曲です。シュリークスで『涙が夕日に』(1971)。
【橋本】 すごくフォークな感じですね。なかなかヒントになる要素が少ないですが、これはどなたのデビュー曲でしょうか?
【中将】 これはイルカさんのデビュー曲なんです。『なごり雪』(1975)などの大ヒットで知られるイルカさんですが、元々はシュリークスというバンドで活動していました。シュリークスは早稲田大学フォークソングクラブ出身の神部和夫さんが、後にかぐや姫のメンバーになる山田パンダさんらを誘って結成したグループ。メンバーチェンジがあり、1970年にイルカさんが本名の保坂としえさんとして加入しました。『涙が夕日に』はイルカさん加入後の初シングル『君の生まれた朝』のB面になります。