“映えスイーツ”のひとつとしてSNSで見かけない日はないクレープ。その発祥はフランスであることを知っていますか? 同国ではイベント会場や大型スーパーの店先などで必ずといっていいほど売られており、定番のおやつとして浸透しています。なんと「クレープの日」なるものまで存在しているのだとか。フランスで長年暮らし食育授業や料理講習会で講師をつとめる管理栄養士・吉野綾美さんに、フランスのクレープ事情について詳しく教えてもらいました。
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クレープの発祥は、フランス北西部に位置するブルターニュ地方。吉野さんによると、誕生の背景にはブルターニュ地方特有の「やせた土地」と「雨・霧が多い天候」が関係しているそうです。「日照時間が少ないため小麦の生産が難しかったブルターニュ地方では、異常気象や災害で不作が起こった際の代用作物として『そば』の栽培をおこなうようになりました。当時の貧しい人々は、そばの実を粉にし水で溶き、炉端の平たい石の上で薄く焼いたものを主食としていました。これがいわゆる『ガレット』で、クレープの原型だと伝えられています」とのこと。
数世紀にわたって庶民の主食であり続けたガレットは次第に宮廷料理にも取り入れられるようになり、そば粉・水・塩のみで作っていた生地は小麦粉に牛乳・バター・卵・砂糖などを加えたレシピへ。そして、現在のクレープへと変化を遂げます。ちなみにフランスでは、細かな縮みじわをつけた薄手の織物(日本ではちりめん)の総称をクレープといいます。薄く焼いた生地が、まるでこの布地のように見えることから同じ名が付けられたとされています。
日本でクレープと言えばホイップクリーム・フルーツ・ツナなどたっぷりの具を生地で巻き、片手で食べやすいようラッピングされたものをイメージしがち。じつは、これは日本特有のアレンジなのだとか。
「フランスではガレット生地に野菜・魚などを包んだものや、クレープ生地にジャム・砂糖をふりかけたものを皿に盛り付けます。そして『フォークとナイフ』を使って食べるのがスタンダードスタイルです」(吉野さん)
さて、冒頭で述べた「クレープの日」について。これは、毎年2月2日の記念日としてフランスでは認知されています。この日には家族や友人と願いを込めてクレープを焼いて食べるそう。なぜ2月2日にクレープを焼くようになったのか、諸説ありますがキリスト教の祝日「ラ・シャンドロール」がもとになったという説がよく知られています。
「クリスマスから数えて40日目にあたる2月2日は、聖母マリアが出産後の清めの儀式を受けキリストが神の子として初めて教会に現れ祝福を受けたことにちなんだお祝いの日です。シャンドロールはラテン語の『ろうそく』が由来の言葉で、この祝日は日本語で『聖燭節(ろうそく祝別)』と訳されています。なぜろうそくが祝日の名前になったかというと、“世界の光”となるキリストを祝して人々が光り輝くろうそくを手に行列した……マリアのお潔めの儀式中にろうそくを灯し続けて見守った……など、いくつかの説があります」(吉野さん)
また、2月2日は冬が終わり春に向けて農耕作業をはじめる時期でもあります。かつてのフランスでは、その年の最初の種まきの後は「前年の余った穀物を粉にして豊作を願いクレープを焼く」という民族的な風習が存在しました。丸くて黄金色をしたクレープが「太陽」を想像させ「豊穣」を意味すること、そして「イエスに光(太陽)を捧げる」という考えのもと行われていたようです。とはいえ、現在は民族的・宗教的な意味は薄れつつあり、一般家庭の行事として“クレープを食べる日”という認識だけが残っているのだそう。
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2月が近づくと日本はバレンタイン商戦や節分商戦で盛り上がりますが、フランスでは“クレープ商戦”が盛んだと吉野さん。「スーパーマーケットなどで牛乳・卵・砂糖などクレープの材料が安売りされます。すぐ食べられるように、焼かれたクレープ生地そのものが売られているのもフランスならではの特徴」と話しました。
(取材・文=つちだ四郎)
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【参考記事】ミルクコラム 第40回 2月2日はクレープの日