【橋本】 さだまさしさんらしい曲ですね(笑)。
【中将】 無縁坂は東京・湯島にある実在の坂で、そこを舞台に年老いた母の人生を歌った内容です。これもイメージとしては先ほどの『老人』と同じく世間の期待する老人像だと思います。
【橋本】 そうですね、思わず泣いちゃうみたいな。
【中将】 さださん独特の私小説っぽい歌詞なんですが、でもこの曲が出た頃って、さださんはまだ20歳そこそこだし、お母さんも50歳にはならない程度。まさか歌詞みたいに小さくなるほど老けてはいなかっただろうと思います。この曲にも世間の理想的な老人像に迎合したあざとさを感じますよね。
【橋本】 なるほど、あざとい(笑)。男性が年老いた母親に抱く感情を上手に表現しているんですね。
【中将】 女性としてはこういう母親への感情ってあるんでしょうか?
【橋本】 うちの母はまだまだ元気だし、友だちみたいな関係性だし、ちょっと違う感じですよね。一般的にはどうなんでしょう?
【中将】 家庭環境や世代によっても大きく異なるかもしれませんね。さて、次に紹介するのが最後の老いソングです。泉谷しげるさんで『老人革命の唄』(1973)。「ワシラもホーム・ドラマに入れてくれ」「年をとるのはお前も同じ その内お前もたたなくなる」……年を取るのはみな平等なのに、社会の片隅に追いやられてしまう老人の心境を歌った泉谷しげるさんらしい曲です。
【橋本】 この頃、泉谷さんはとてもお若かったと思うんですが、どうしてこういうテーマの曲を作ろうと思われたんでしょうね……。
【中将】 社会の矛盾について歌うのが当時の泉谷さんのスタンスですからね。若者としての自己主張だけにとどまらなかったのはさすがだと思います。老人に理想像を押し付け、排斥しようとする社会へのアンチテーゼなんですね。
【橋本】 なるほど!
【中将】 最近、テレビを見ても70代、80代の出演者って少ないじゃないですか。視聴者人口で言えば一番多い世代なのに、そういう人たちが見たいタレントが出ていない。テレビなんて若者で見てる人は減ってるんだから、どんどんお年寄りを起用して老人向けメディアになればいいんですよ。もっと老人へのリスペクトが必要な時代だと思いますね。

【お知らせ】
2025年4月~9月、橋本菜津美がNHK文化カルチャーセンター梅田教室(大阪)で「令和にフォークソングを歌おう♪」の講師を担当。詳細は同教室のホームページ掲載されています。





