細部まで見て、香りを嗅いで、音色を聴いて。正倉院宝物の魅力をダイレクトに感じられる特別展「正倉院 THE SHOW―感じる。いま、ここにある奇跡―」が大阪歴史博物館(大阪市中央区)で開かれている。これまで鑑賞の機会が限定的だった正倉院宝物を多様なアプローチで存分に味わえる、画期的な展示イベントだ。8月24日(日)まで。

正倉院を管理する宮内庁正倉院事務所(奈良市)は、1972年から各種分析装置や光学機器を駆使、制作当時の素材や技法を研究して、宝物の再現模造品を作り出してきた。これまでに制作された同品は50に及ぶ。
今展ではその中から11点を展示。さらに優品を360度からスキャンした高精細な3Dデジタルデータに演出を加え、映像作品として幅約20メートルの大スクリーンで上映している。これまでの展覧会や図録などでは分からなかった、造形の微細な箇所がはっきりと見え、質感までリアルに感じられる。宝物の映像のほかにも、聖武天皇と光明皇后の絆を描いたもの、宝物に施された文様や意匠が幻想的に登場するものなど、多彩な動画が壮麗な音楽とともに映し出され、正倉院宝物に宿る美と愛の世界が華やかに展開する。

織田信長が一部を切り取ったことで知られる天下の名香「蘭奢待(らんじゃたい)」(宝物名「黄熟香(おうじゅくこう)」のコーナーでは、再現された香りを実際に嗅ぐことができる。正倉院事務所は2024年度から「高砂香料工業」(東京都大田区)の協力を得て、蘭奢待の小さな脱落片を使って成分を分析。調査結果や調香師の感覚を基に、いにしえの高貴な香りを作り上げた。正倉院事務所が蘭奢待の香りを再現したのは初めて。

そのほか、宝物がきれいな状態で伝わってきた背景や高度な技法の紹介、さらに昭和20~30年代に録音された、宝物の楽器の音色を聴くことができるコーナーもある。
展示の締めくくりは、宝物からインスピレーションを得た現代アーティストの作品。デザイナーの篠原ともえさんが手掛けたドレスのほか、陶芸、楽曲、写真作品が並び、正倉院宝物が継承されていく未来を想起させる。




