生まれも育ちも神戸市中央区でサブカル郷土史家の佐々木孝昌(神戸史談会、神戸史学会・会員)が、北区出身で落語家の桂天吾と“神戸のあれこれ”についてポッドキャストで語る『神戸放談』(ラジオ関西Podcast)連載シリーズ。三宮センター街にあるトロフィーと造花のお店「毛利マーク」代表取締役で、灘区民の藤井淳史さんも交えて3人で語る今回のテーマは、「そばとうどん」です。
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神戸は中華料理や洋食が有名だが、いやいや、意外と「そば屋」が多いのである。関西と言えば“うどん文化”。本来ならうどん屋が多くてもおかしくないのだが、なぜか目に付くのは「生そば」「手打ちそば」「信州そば」などと銘打った、そば屋としての暖簾なのである。うどんはというと、関西うどんではなく「讃岐うどん専門店」の方が目に付くのだ。もちろん、そば屋でもうどん屋でもメニューには、そばとうどんの両方ある店がほとんどだが、そば屋として営業している店(そばが主でうどんが従)が神戸には多いのだ。

戦前からのそば屋だと、兵庫区の「丸亀」と中央区の「鳴門庵」は、ともに1921年創業の大正時代からある。僕が昔から通っている兵庫区福原の「松濤庵」も昭和初期の創業だ。しかし、何といっても一番の老舗は、須磨浦公園の敦盛塚前にある「敦盛そば」ではないだろうか。経営者は度々変わっているが、屋号としての継続性から鑑みると江戸時代から営業しているので、現存する「神戸で最古のそば屋」になるだろう。

昭和20年代創業の戦後の老舗では、三宮にある「東京そば正家」や「信そば長野屋」、元町の「つるてん生楽」などが有名だ。そのほか、昭和中期創業のそば屋も多々ある。また、京都が有名なにしんそばを置いている店が結構あるのも、気になるところ。


一方、戦前からのうどん屋となると、思い浮かばない……。1914年に創業した新開地の「びっくりうどん」くらいだが、残念ながら2006年に閉店してしまった。とにかく安くて量が多かったからよく行ったし、太く柔らかい麺に薄味の出汁が印象的だった。
藤井さんは、「うどんはどこでも食べられる身近なもんやから、うどん屋が少ないのでは?」と言う。そうなのだ。僕も思っていたのだが、神戸ではうどんは基本的に“大衆食堂で食べるもの”なのだ。大衆食堂のメニューでは、うどんが主でそばが従と言えるのではないだろうか。中央卸売市場にある1922年創業の老舗「丸石食堂」も、うどんがメインだ。また、甘党系の食堂や、神戸にも戦前からある餅系食堂の「力餅食堂」といえばうどんのイメージが強い。
ある日、福原の松濤庵で「神戸って、うどん屋が少なくてそば屋がめっちゃ多くない?」と聞いてみた。確かに神戸はそば屋が多いと言う。ただ、その理由は分からないとのこと。実は、神戸はうまいそば屋が多い。隠れたそばの名所なのである。
※ラジオ関西Podcast『神戸放談』#21「神戸はそば処?」より
(文=サブカル郷土史家 佐々木孝昌)





