SNSで若い世代のがん患者が治療の様子を発信し、支援の輪が広がった事例がありました。国民病とも言われる「がん」への関心が高まるなか、兵庫県ではどのような治療体制が整えられているのか、特に小児や若年層の医療について取材しました。
兵庫県では、がんは1978年に脳卒中を抜いて死亡原因の1位となり、現在も4人に1人ががんで亡くなる状況が続いています。県は国の「がん対策基本法」を踏まえ、「ひょうご対がん戦略推進方策」を改定しながら治療体制の強化を進めてきました。小児がんへの放射線治療については、県立こども病院との連携のもと、陽子線治療が選択肢の一つとして提供されています。
陽子線治療は、放射線を病変部に集中的に届けやすい特徴があり、放射線が広がりにくいため副作用を抑えられる可能性があります。しかし、「治療法の認知度にはまだ差があり、必要な人に情報が届きにくい側面もある」と話すのは、兵庫県立粒子線医療センター附属神戸陽子線センターで放射線技術科長を務める清水勝一さんです。医師向けの説明会や患者向けの見学会など、治療法を知ってもらうための取り組みを続けています。

小児がんの陽子線治療では、多くの工程で大人よりも時間と手間がかかります。治療中は動かない姿勢を保つ必要があり、年齢が低い場合は麻酔が必要になります。全国的に小児麻酔科医の確保は課題とされており、対応が限られることもあります。清水さんは「小児への放射線治療は、大人の4倍ほどケアが必要になると言われる」としたうえで、小児がんに対する陽子線治療の診療報酬が大人と同水準である現状に触れ、「見直しがあればありがたい」と話します。
治療費をめぐっては、公的な支援制度もあります。兵庫県では20歳から39歳のAYA世代を対象に、がん治療にかかる費用を一部減免する制度が設けられています。若い世代でも治療につながりやすくすることが狙いで、経済的な負担を理由に治療をためらうケースを減らすことが期待されています。
子どもたちが治療を受けやすくするため、現場ではさまざまな工夫も行われています。固定具にキャラクターの絵を描き不安を和らげる工夫や、検査中にDVDを見られるようにする仕組み、治療の進み具合が分かるスタンプカードの作成など、治療そのものに前向きに向き合えるよう支援しています。治療を急に始めるのではなく、見学だけの日を設ける「プレパレーション」を取り入れることもあります。

取材を通して見えてきたのは、小児や若年層のがん治療が医療者の高い専門性だけでなく、日々の細かな寄り添いに支えられているということです。清水さんは「放射線治療は寄り添う医療。毎日顔を合わせる中で、最後には悩みを話してくれることもある。築かれた信頼関係を大切にしたい」と話しました。治療を終えた子が、成長して進路相談に訪れたこともあったといいます。
がん治療は特定の施設だけで完結するものではなく、地域の医療体制、支える人々、そして住民の理解によって成り立っています。若い世代のがん治療をどう支えるのか──その現状を知ることが、地域全体で支える最初の一歩になりそうです。
(取材・文=洲崎春花)






