ポルトガルと日本はかつて「南蛮貿易」で結びつき、その際に伝わった文化は今も日本に残されています。おでんなどの煮物料理でおなじみの「がんもどき」もそのひとつなのだとか。料理研究家・丹田いづみさんに話を聞きました。

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ポルトガル料理や文化に精通する丹田さんによると、がんもどきと深い関係にあるのは、ポルトガルの伝統的な揚げ菓子「フィリョース」だとか。
「フィリョースの歴史は長く、レシピが15世紀ごろの文献に残されているほど。小麦粉と卵、砂糖などを混ぜ合わせ形を作り、油で揚げるというのが基本的なレシピですが、地域や家庭により、さまざまな形や味付けがあります。現在でも、カーニバルやクリスマスには欠かせないお菓子です」(丹田さん)
家庭料理としても浸透しているフィリョースは、油で揚げた後に砂糖やシナモンパウダーをふりかけたり、シロップに浸すといった食べ方をするそう。また、生地の中にオレンジ果汁や牛乳、「アグアルデンテ」という蒸留酒やオリーブオイルを加えるレシピもあり、実に多彩なフィリョースが存在するようです。クリスマスにはつぶしたかぼちゃを加えた「フィリョース・デ・アボボーラ」というメニューが定番だといいます。
いっぽう「がんもどき」は豆腐を使った揚げ物。つぶした豆腐に、ひじき・にんじん・シイタケなど野菜の具材が加えられており、そもそもは食肉を禁じられていた僧侶が口にする精進料理だったとされています。名前の由来は諸説ありますが、中には鳥の雁(がん)の味に似ているため「雁もどき」と名付けられた…という説も。しかしながら、関西ではがんもどきのことを「ひろうす」や「ひりょうず(飛龍頭)」と呼ぶことも。これこそが、ポルトガルのフィリョースが関係していることを証明していると言われています。
日本では、室町時代にキリスト教の布教とともに、ポルトガル・オランダ・スペインからさまざまな文化が持ち込まれました。現在は当たり前となっている砂糖をふんだんに使ったスイーツもこれらの国から渡ってきたものが多く、「南蛮菓子」と呼ばれています。
丹田さんは、「フィリョースが南蛮菓子として日本に持ち込まれた際、作り方が似ていることから、いつしか『ひろうす』『ひりょうず』と呼ばれるようになったとも。約400年前に書かれた『南蛮料理書』という書物には『粳米の粉を蒸して練り、すり鉢にあけ、とき卵を加え、すってかたい糊くらいにし、油で揚げる。煮詰めた砂糖に一度浸し、上に金平糖をかける。口伝がある』と記述があり、小麦粉と卵を合わせて油で揚げた南蛮菓子として紹介されています」と話します。
「金平糖」や「ボーロ」、「カルメラ」などのお菓子もポルトガル由来であることは有名ですが、「パン」や「ビスケット」も実はポルトガル語がもとになっているのだとか。
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食べ物以外にも、「ボタン」「マント」「タバコ」「コップ」などもポルトガルから持ち込まれました。私たちが気づいていないだけで、知らず知らずのうちに触れているポルトガル文化はまだまだあるのかもしれません。
(取材・文=つちだ四郎)




