元は建築現場のもの いつしか極上の芸術品に 国内外の100点ずらり 竹中大工道具館「墨壺百態」

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 建築現場で直線を引くために用いられる大工道具「墨壺(すみつぼ)」。多彩なデザインの墨壺を通して、その機能と造形美、文化的背景を紹介するユニークな企画展「墨壺百態」が竹中大工道具館(神戸市中央区)で開かれている。会場には日本をはじめ中国や朝鮮半島、東南アジアなどから集められた約100点が並び、実用の道具としての側面と、美術工芸品としての魅力の双方を伝えている。

竹中大工道具館(神戸市中央区)

 墨壺は、糸に墨を含ませて弾くことでまっすぐな線を引く道具で、大工仕事には欠かせないアイテム。その起源は古く、縄を使って位置や垂直・水平を測る知恵の延長として生まれたと考えられている。古代エジプトの遺跡に墨線の痕跡が残り、古代ギリシャや中国の文献にも同様の技術が記されていることから、人類が早くから直線を引く技術を持っていたことがうかがえる。

展示の様子

 本展では、そうした墨壺の進化の過程を丁寧にひもとく。初期には糸巻きと墨を含ませる容器が分かれていたが、東アジアで両者が一体化したことで現在の形へと発展。日本でも奈良時代にはすでに一体型が登場し、やがて持ちやすさや耐久性を考慮した形へと改良が重ねられていった。中央に金輪を備え垂直を測る機能を持つものや、携帯性を重視した直方体の「一文字形」、墨の乾燥を防ぐために池を大きくした「杓文字形」など、多様なバリエーションが紹介され、機能と形態が密接に結びついていることが理解できる。

国内外のさまざまな墨壺が並ぶ

 一方で、大きな見どころとなっているのが、墨壺に施された豊かな装飾とバラエティーに富んだ造形だ。一般に大工道具は実用本位で装飾が少ないが、墨壺は例外的にさまざまな意匠が施されてきた。木製で加工しやすいという理由に加え、建築儀式において曲尺(さしがね)や釿(ちょうな)とともに祭壇に供えられる「神聖な道具」として扱われてきた背景があるという。墨壺が引く一本の線は、木材に建築材としての役割を与える象徴的な行為でもあり、その重要性が特別な造形へとつながったとされる。

 会場には、動物や瑞獣(ずいじゅう=古代中国でめでたいことの兆しとして現れる空想上の動物)をかたどったもの、精緻な彫刻が施されたもの、物語性のあるデザインのものなどが並び、実用品の域を超え、精神世界と結びついたアート作品であることを実感する。正倉院に伝わる裁縫用のミニチュア(復元模造)がある一方で、長さ1メートル以上に及ぶ迫力満点の作品も。作り手が技に挑んだ心意気とともに、遊び心も見て取れる。地域ごとに異なるデザインである点も興味深く、それぞれの文化や美意識の差異が浮かび上がる。

大墨壺「水龍」成孝作
大墨壺(水龍)成孝作
タイの墨壺(猿形)
正倉院の豆墨壺(復元模造)
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