淡路島・5人刺殺事件で1審・神戸地方裁判所の死刑判決を破棄し無期懲役とした1月27日の大阪高裁判決を受け、遺族らは怒りを隠せなかった。
遺族は憤り…(代理人弁護士を通じてコメント)
「親族を殺され、5年もかけて審理を重ねたあげく、死刑ではなく無期懲役であると判断されても、全く受け入れることはできません。神戸地方裁判所で長期間をかけて裁判員を交えて評議した結論を、高等裁判所において、別の鑑定人の鑑定結果の方が信用できるなどという理由で覆し、5人もの尊い生命を奪った被告人を死刑にしないという結論は、あまりに非常識だと思います」
裁判員裁判の死刑判決が覆えされ、2審で無期懲役となったのは7件目。このうち2014年に神戸・長田区で小1女児が殺害された事件や、2012年に大阪・ミナミで通行人2人が犠牲となった通り魔事件など5つの事件ではそのまま最高裁で無期懲役判決が確定している。
別の遺族は……
「1審では裁判官と裁判員が私ども遺族の意見をも踏まえ、一所懸命検討し、刑の減軽をする必要はないと判断したのです。そのような判断を高裁が新しく証拠を集めてまで否定して被告人を守ることは、裁判員制度の趣旨を台無しにするものと思います」(代理人弁護士を通じてコメント)
大阪高裁は被告の男(45)について、向精神薬を長期間服用した影響で薬剤性精神病に陥ったが責任能力はあったとする1審判決を破棄。重い妄想性障害のもと、犯行を思いとどまる能力が著しく低い「心神耗弱」状態だったとした。刑法では心神耗弱だった場合、刑を軽くすることを定めている。
判決理由で大阪高裁は「1審判決が死刑なので、被告の責任能力の判断に万全を期すために精神鑑定を実施した」と釈明。
「1審判決は裁判員との的確な評議の結果」と評価しながらも「1審で採用された精神鑑定が必ずしも信用できるものでない」とした。
相次ぐ死刑判決破棄に甲南大学法科大学院の渡辺修教授(刑事訴訟法)は「市民の意見を反映させるという裁判員制度は実質的に意味がなくなり、形骸化する」と危惧。「このままだと市民が裁判員として責任感を持って参加する意欲を失う。また死刑や無期懲役とした1審判決を破棄する際には1審に差し戻し、別の裁判員や裁判官に審理を委ねるべき」とも指摘している。
一方、刑期の長さを選択する懲役刑と、執行すれば取り返しがつかない死刑とは質的に違うため、慎重に検討せざるを得ないという考え方もある。
裁判員制度か導入され10年が過ぎた。国民の感覚を反映させた「死刑」判断をどうとらえるのか、議論を一歩進める時期に来ている。