地域福祉の担い手である民生委員。しかし、どんな人がどんな活動をしているのか、その実態を知る人は少ない。今回手にした「こんにちは、民生委員です」(著:鶴石悠紀/幻冬舎メディアコンサルティング)では、実際に3期9年務めた著者が、その活動実態や苦労を分かりやすく教えてくれる。
著者は長野県在住で社会保険労務士をやっていた経験から、年金や保険に強いということで民生委員の誘いを受け、65歳から活動を開始した。
そもそも民生委員とは厚生労働大臣から委嘱された給与の出ないボランティア公務員。児童委員も兼ねており、全国に23万人いるといわれている。さまざまな住民の困りごとの相談に乗るのが主な活動。しかし法律・介護・福祉の専門家ではないので、自分で解決せずに専門組織につなぐ「何でも相談ポスト」のような役割を果たすことになる。
相談内容は生活困窮、親の介護や認知症、障害独居高齢者、保育園入園、通学路見守り、幼児虐待、外国人生活者の悩みなど多岐にわたる。
なかでも独居老人の見守りと訪問には、多くの時間を割くことになる。特に高齢男性は近所との交流が少ないので要注意。また訪問してもインターホンは切られ、電話に出ないことが多いという。どうやら別に住む家族から「悪質セールスが多いので対応しないように」と言われていて、面会もままならないのだ。
やっと会えても「テレビのリモコンが動かない」「障子を張り替えてくれ」「灯油を買ってきてくれ」など小間使いを頼まれるケースも多い。しかし一度引き受けてしまうと常態化するので、ボランティアの立場でその見極めが難しく、対応に苦慮するという。
小学生の通学路の見守りは元気がもらえるが、挨拶しても返事をしない子が目立つという。児童たちはちゃんと挨拶することと、あまり知らない人に関わらないほうがいいこととの線引きが難しいらしい。
いま一番の悩みが、民生委員のなり手が少ないということ。引き受けられる人の高齢化、それに対し支援が必要な高齢者の急増で供給が間に合わず、更新時期になっても後任が決まらない地域も多いという。
ただ苦労ばかりでもない。高齢者支援や児童の見守りが、結局は自分の健康と元気につながっていると著者は強調する。シニアになって人は誰かのためになっている、誰かを助け、支え、喜ばせている……など自分を頼りにしてくれる人がいることが生きがいになるのだと。よくセカンドライフはこれまでの「恩返し」のために生きろといわれる。しかし恩を受けた人だけにお返しするより、これからは知らない人にも何かを返していく「恩送り」の精神で生きていきたい、とこの本は締めくくっている。(羽川英樹)
◇「こんにちは、民生委員です」(著:鶴石悠紀/幻冬舎メディアコンサルティング)
価格:1200円+税
出版年月日:2018/10/25
ページ数:264ページ
ISBN:9784344918573
※ラジオ関西『羽川英樹ハッスル!』2021年2月25日放送回「読んだつもり」より