東日本大震災の発生から10年。災害からの復興を支える地域文化の活動を通し、その大切さと次の世代への継承について考える特別展「復興を支える地域の文化―3・11から10年」が大阪府吹田市の国立民族学博物館で始まった。2021年5月18日(火)まで。
2011年3月の東日本大震災では、多くの文化財や地域に根付く伝統芸能も被害を受けた。避難生活を余儀なくされ地域コミュニティーの存続が危ぶまれる中、人々はがれきの残る場所や仮設住宅でまつりを開催し、伝統芸能を奉納したという。地域文化とはその土地で受け継がれてきた生活の記憶であり、有形・無形様々、その土地ではあたり前のものもある。一方で変化が大きい現代では容易に忘れ去られてしまうという危機に直面している。特別展では、震災後に再開された郷土芸能が人々の生活を後押しし、復興への支えになっていることや、被災した文化財などの修復作業、そして災害によって再発見された地域文化も紹介する。
宮城県石巻市では文化財収蔵庫も津波の被害を受けた。その修復作業には東北の大学生たちも参加した。木製の「カマガミサマ」は水を使うことができず刷毛で泥を落とした。塩水に浸かった手押しポンプ車は、その濃度によって対処の方法が変わるため、塩水のサンプルをみんぱく(国立民族学博物館)に送り、指示を受けながらクリーニングに当たった。学生たち自身も被災しており、作業が学生たちのケアにもなったという。
地域文化の存在は、その地域では日常であり、ほとんど意識されていないこともある。震災によって「貴重な文化」とわかったケースもあった。捕鯨に使われていた道具やその地域ならではの「言葉」だ。震災後、山積みになっていたものが「資料」なのか「ごみ」なのか、聞き取りからわかった。
特別展では日本で起きたほかの災害にも目を向ける。2004年の新潟県中越地震では、被災した土蔵から見つかった歴史資料が、幕末に徳川家から贈られたものだとわかった。越後縮の商いに関するもので、十日町の越後縮が将軍家に納められていたことが実証された。「きものの町・十日町」の再発見につながったという。
日本は災害が多い。各地に建立された石碑や震災の記憶を伝える紙芝居など、防災の観点から未来に伝える取り組みも紹介する。最大14.8メートルの津波被害を受けた宮城県女川町では町内にある21の浜に「女川いのちの石碑」が建つ。これは東日本大震災の直後に現在の女川中学校に入学した子どもたちが、将来の津波被害を最小限にとどめようと募金活動を行うなどして建てられたもの。子どもたちは東京への修学旅行で企業を回り、協力を呼び掛けたという。
国立民族学博物館の日高真吾教授は「地域文化はあまりに身近で意識することが少ない。東日本大震災から10年の今、復興に欠かせない地域文化の役割と大切さを感じてほしい。そのあとでもう一度展示を改めてみると、また違ったものが見えると思います」と話す。
◆特別展「復興を支える地域の文化―3.11から10年」
会期 2021年3月4日(木)~5月18日(火)
会場 国立民族学博物館 特別展示館(大阪府吹田市千里万博公園10-1)
休館日 水曜
【国立民族学博物館HP(特別展ページ)】