兵庫県南あわじ市の福良湾で、12月9日、「淡路島サクラマス」の今シーズンの養殖が始まった。
サクラマスは、ヤマメが銀化して川から海へ下り、海で成長する。天然ものは日本のレッドデータブックで準絶滅危惧種に指定されており、幻の魚と呼ばれるほど希少だ。成長とともに脂がのり、うま味と上品な甘味が増す。サケ・マス類の中では「一番おいしい」と食通をうならせる高級魚として知られている。旬は3月から5月。桜が咲く季節と重なり、身の色がピンク色をしていることからこの名がついたという。
福良湾では、2017年にこのサクラマスの養殖に成功。温暖な淡路島にありながら水温が低く、鳴門海峡の早い潮流もサクラマスが育つには絶好の環境だ。何より、全国に知られるブランドとなった「淡路島3年とらふぐ」の養殖に成功した養殖業者の高い技術と長年の経験で、上質なサクラマスへと育て、淡路島の新しい春の味覚「淡路島サクラマス」が誕生した。それ以降、毎年旬の時期には島内の飲食店やホテルなどが独自のメニューを打ち出して腕を振るうが、2年連続の新型コロナウイルス感染症の影響は大きな打撃となっている。
それでも「そんな状況に負けない!打ち勝とう!」と、淡路島の宿泊施設や集客施設、飲食店、直売所などに呼びかけ、2022年3月から始まる今回のキャンペーンでは、36店舗が「淡路島サクラマス」を使った68のメニューを提供する予定だ。
12月9日早朝、サクラマスの稚魚およそ1万匹(3トン)が福良湾内のいけすに放流された。稚魚を淡水の水槽に入れたあと、徐々に海水を入れて慣らしていく。餌付けをし、湾内に設けられた縦13メートル・横13メートル・深さ7メートルのいけすに放流。養殖を手がける、福良漁業協同組合代表理事組合長で、若男水産株式会社の社長・前田若男さんによると、稚魚は体長およそ25センチ、重さは300グラムほど。3か月ほど育てると、大きいもので1キロほどになるという。2月になると、1尾ずつ手作業で選別し、大きさを分けて育てる。すべて手作業のため、かなり大変だが、この丁寧な作業を経て鳴門海峡の潮にもまれたサクラマスはしっかりとした身に育つ。餌も工夫されていて、淡路島らしくタマネギの皮の成分も入っている。含まれるポリフェノール等が、身色の鮮やかさを保ってくれる。
前田さんは「コロナ禍で淡路島を訪れる人が減って、まだまだ淡路島サクラマスが知られていないと感じる。たくさんの人に、このおいしさを味わって欲しい」と話している。