新年度が始まって約2週間。新しい生活が始まった皆さんは慣れましたか? 知らない土地で過ごす方もいると思います。「言葉」も地域によって異なり、“知らない”に出会うことがあるかもしれません。方言、アクセントの違いだけならまだしも、同じ単語を使うのに、意味が違う時があります。「たぬき」もその1つです。動物の「たぬき」ではなく、麺類のことです。
「たぬき」と聞いて、「そば? うどん?」と思った方は関西以外(関東)の出身と言っていいかもしれません。関西人が「たぬき」と聞いた時、多くの人の頭に浮かぶ麺類は1つ。「きつねそば」です。ところが、関東で「たぬき」は別のものを指します。
『広辞苑 第七版』(岩波書店)には…
たぬきうどん「揚げ玉と刻んだ葱とを入れた掛けうどん」
たぬきそば「関東で、揚げ玉と刻んだ葱とを入れた掛けそば」
とあります。そしてその後に「関西で、油揚げを入れた掛けそば」と続いています。ちなみに「揚げ玉」とは関西で言う「天かす」のことです。(厳密には違うとされる場合もあります)
関東で「たぬき」というと、「そば」や「うどん」を選択できますが、関西では、『きつね(油揚げ)がのったそば』が基本です。広辞苑にも「きつねそば」の項目に、「甘辛く煮た油揚と刻んだ葱などを入れた掛け蕎麦。関西では『たぬき』と呼ぶ」とあります。
私が学生時代のこと。大阪にある大学の学食で並んでいると、ある学生が「たぬきうどん」と“食堂のおばちゃん”に注文を伝えました。やがて出てきたのは「きつねそば」。
学生「いや、『たぬきうどん』って言ったんですけど」
おばちゃん「お兄ちゃん、東京の人でしょ。こっち(関西)で『たぬき』って言うたらこれ(きつねそば)のことやねん。覚えといたらええよ」