高齢化で4人に1人はがんにかかるとも言われている昨今、副作用が少ないと注目されている粒子線治療。長い間、高額な医療費がネックとなっていたが、この春、公的医療保険の対象範囲が拡大。従来の小児がんなどに加え、大型の肝細胞がんなど5種類が追加された。兵庫県立粒子線医療センター(兵庫県たつの市)で院長を務める沖本智昭さんに話を聞いた。
■保険適用範囲の拡大、支払額の抑制、
これまで粒子線治療の保険適用は、小児がん、骨軟部腫瘍、前立腺がん、頭頸部がんの4種類に限られていたが、2022年4月からはそこに、大型の肝細胞がん(長径4センチ以上)、肝内胆管がん、局所進行の膵臓がん、局所進行の子宮頸部腺がん、手術後に局所再発した大腸がんの5種類が加わった。
沖本さんは、「これで医療費を抑えることができます。粒子線治療は、医療費が300万円前後と高額なことが課題だったのですが、保険適用となると、高額医療費制度で患者の支払額の上限が決まるため、(これまでの)十分の一から数十分の一になることもあり得ます」と、保険適用範囲拡大の意義を説いた。
■粒子線治療とは
粒子線治療は放射線治療の一種で、水素のイオンである「陽子」を照射する手法と、炭素のイオンである「重粒子」を照射する手法の2種類がある。粒子線治療ができる施設のうち、この2種類を使い分けられる施設は、同センターだけだという。
■粒子線治療のメリット
沖本さんは、まず放射線治療について「なぜ放射線でがん細胞が死ぬかというと、照射することで、がん細胞の中のDNAが切断されて死んでいくという原理。ただ、中には、エックス線である程度細胞を傷つけたとしても、すぐそれを修復してしまう悪性腫瘍が存在します」と解説した。
一方、粒子線は「エックス線よりも、DNAを切断する能力が高い」とのことで「エックス線で歯が立たないものでも、粒子線では治療できる可能性があるんです」(沖本さん)。
そして、「エックス線は人間の体を通過するのに対し、粒子線は人間の体の中で止まるので、正常な組織・臓器の放射線障害を減らすことができる。つまり、副作用が少ないということです」と、粒子線のもう一つのメリットを挙げた。